序章
現実とは到底思えないことが、目の前で起きていた。
崩れ落ちるビル。亀裂が入っている地面。
そして——血まみれの、地面。
たくさんの人が、目の前では倒れていた。
首が無い人もいれば、弾丸のような跡が無数についている人も。
そんな中、二人の少女だけが立っていた。
全てが夢か幻かとしか思えない光景。
けれど蓮人は、そんな異常な光景を、ただ、呆然と眺めるだけだった。
——徐々に息ができなくなる。まるで、首を絞めつけられるような感覚。
どんどん視界が悪くなっていく中、微かに見えた。
ボロボロになりながらも、その二人の少女と葛藤をしている男を。
男が右手を伸ばしたかと思うと、首が締め付けられる感覚に襲われる。
「ぃ——」
かすれた声しか出せない。
——もう限界だ。
そう思った瞬間、視界が真っ暗になり、全身の力が抜けた感じがする。
「——蓮人!」
名前を叫ばれる。
だが、蓮人はもう何もできない。
「ぅ……」
微かに目を開ける。目の前には、真っ黒い奇妙な装飾が施されたドレスを身にまとった少女が背を向けていた。
「レ……ァ」
やや長い空色の髪をなびかせながら。
「蓮人……しっかりして」
凛とした表情で、こちらを見る。
その眼は、悲しみのような、怒りのようなものが見えた気がした。
「ここで——終わらせる」
男の方へ顔を向け、静かにそう言い放った。
次の瞬間、重々しく大きな破裂音が蓮人の耳を襲った——。