チュートリアル
破壊され尽くした街の真ん中でうずくまっている少年と謎の男。
「はぁはぁ…何でだよ…おかしいだろ…なんでお前が…」
「仕方のないことなんだよ。。この世界は完成しなかった。だから消すしかないんだ。」
…完成?魔王なら倒したじゃないか!世界も平和になった!これ以上何を望むって言うんだ!」
「はぁ…だからだめなんだよ。あの人はあんな終わり方もそんな世界も望んでいない。」
「あの人?…お前以外にも世界を消そうとしてる人がいるのか?」
「別に僕もあの人も消したくて消してるわけじゃないよ。なんなら消したくないまであるしね。今までの時間が無駄になっちゃうじゃないか。」
「じゃあなんでこんなことしてんだよ‼︎」
「それは君が知る必要のないことだ。そろそろ終わりにしよう。」
謎の男は剣を抜きその刃を勇者に向けた。
「しばしのお別れだ。じゃあまた会おう。」
「クソ…くそ…クソがー!!!」
「うわー!」ガバッ
あたりを見渡すといつも通り自分の部屋だった。
「はぁはぁ…夢か…よりによってこんな日になんて夢だよ…」
ふと壁のカレンダーをみる。カレンダーには『出発日』と書かれていた。
バン!
いきなり部屋の扉が勢いよく開いた。
「いつまで寝てんの!今日出発するんでしょ!早く起きなさい!!」
「わかってるよ!今起きたところ!」
「相変わらず朝弱いわねー…そんなんじゃ起きてすぐ魔物と戦えないわよ。私が現役だったからは…」
「もーわかったからとりあえず着替えるから出てってくれよ!」
「はいはいご飯ももうできるからすぐ降りてきなよ」
父と母は若い頃勇者一行のメンバーだった。『狂犬オース』、『女神ローズ』と呼ばれその名を知らない冒険者はいないほどだった。しかし魔王討伐まであと一歩のところで、勇者が不治の病にかかってしまい断念せざる得なかった。
そんな父と母の冒険の話を小さい頃から聞いていた僕は気づいた時には冒険者になることが夢になっていた。もちろんその危険性を知っている父と母は反対したがそれでもなんとか説得して『出発は16の誕生日の次の週。』、それと『16の誕生日まで父と母から稽古を受ける。』二人の稽古は厳しかったが、冒険者になるためだと思えば苦ではなかった。
「そして今日ついに!この村を出ることができる!冒険の始まりだー!」
バン!
「いつまで着替えてんの!早くしなさい!そんなんじゃ魔物に…」
「もうわかったから!もう着替え終わるって!母さんはいっつもそうだ!口を開けば魔物にって!」
「なんでちょっとハリウッド口調なのよ…まぁわかってるならいいのよ。ご飯もうできてるから早くしないと冷めるわよ。」
いつも聞いてる母の小言ももう当分聞けないかもしれないと思うと少し考え深いものがある。いつも俺のことを思って言ってくれてるのだ。感謝するべきなんだろう。
「いただきます。」
「飯食ったらすぐ出発するのか?」
「うん。教会に行って回復ポーションもらわないとだからすぐ出るよ。」
「あまりもらいすぎるなよ。回復草の調合も普段からやって慣れておかないといざという時困るからな。」
「わかってるよ。ポーションも本当にやばい時にしか使わないよ。」
「ん、わかってるならいいんだ。」
「ごちそうさまでした。」
朝ごはんを食べ終わった俺は自分の部屋に戻り主発の準備をした。16年間過ごした部屋ともしばしの別れだ。空っぽになった部屋を見つめて少し寂しくなる。
「…よし!行くか!」
部屋を出て玄関の前に行くと父と母が立っていた。
「…気をつけるんだぞ。慢心せず毎日トレーニングして飯もちゃんと食えよ。」
「うん。稽古で習ったことは全部覚えてるから。」
「元気でね。20歳の誕生日までには1回は帰ってきなさいよ。たまには手紙ちょうだいね。」
母の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「父さん、母さん今までありがとう。父さんと母さんたちみたいに立派になれるかわからないけど俺、頑張るから!」
「そうか…お前ならきっとなれる。」
滅多に笑わない父が笑顔でそう言ってくれた。
「辛かったりしたらいつでも帰ってきていいんだからね?私たちはいつでもあなたの味方よ。」
「…ありがとう…」
二人の言葉に涙が溢れ出しそうだった。グッと堪えて俺は再び覚悟を決めた。
「絶対に!…二人が倒すことのできなかった魔王も絶対に倒すから!」
そう叫んで俺は笑顔を見せた。
「行ってきます!!」
ドアを勢いよく開け、大きな一歩を踏み出した。
さぁ冒険の始まりだ。