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夢魔夢中

作者: 雉白書屋

 とある中学。その少女は教室に入った瞬間、眉を顰めた。と、いうのもクラスの男子から一斉に視線を注がれたのだ。そして、彼らは一様に目を逸らした。さらにニヤニヤ。また覗き見るように視線を向ける者が多々あった。

 女子連中は普通であった。いつものように挨拶を交わし、会話に加わる。しかし、少女は先程の男子連中の反応がどこか引っ掛かっていた。そうだ、思えばクラスの男子生徒だけではない。他のクラス、学年、いや学校に来るまでの間にすれ違った……そう、男。男だ。


 もしやと思っていたら先生も同じ反応であった。

 少女を見てニヤリとしたかと思えば取り繕うように咳払いし、その後も、もじもじとどこか落ち着かない、しかしそれを悟られないよう懸命に隠そうとしていた。先生だけではない。男たち全員がだ。そしてそれはその日だけではなかった。翌日も、その翌日も。訳がわからなかったが、謎はおのずと、そう、否が応でも少女は知ることになる。


「あんさぁ……俺さぁお前のこと、好きかもしんねぇけど……どうする?」

「……好き、だと思う。マジで」

「お前以外はノーサンキュー」

「逆に俺のこと好きだったり?」

「今夜も会える……よな?」

「できたらさぁ、俺だけにして欲しいんだよなぁ……」

「マック奢ってやるよ」

「俺ら、もう付き合ってるようなもんじゃね? なんつって……」


 は? はぁ? はぁ!? と、目を見開く少女。

 マスタベーションする動物園のチンパンジーのような盛りのついた男子連中からの告白の連続に少女は驚きや苛立ちを通り越し、恐怖を覚えた。

 なぜこうも急にモテだしたのか。いや、それどころか馴れ馴れしい、雁首揃えて色男の彼氏面を並べる打ち首晒し首にしてやりたい連中に少女は怒りを抑え、どういうことかと訊ねるとこれまた揃いも揃ってこう言った。


「だって……夢んなかで俺らぁ……シたじゃん?」


 どうやら毎晩、彼らの夢の中に少女が現れそしてセックスをしているというのだ。

 そんな馬鹿な、有り得ない……などとは思いたくとも思えなかった。家に帰ればファンレターやプレゼントの山。どうやら住所が漏れたらしい。少女への愛をつづったものや、やはりもう彼氏面、斜め上からのアドバイスにポエム。ほくろの数と場所を言い当てたもの、また昨日のより一昨日の下着のほうが良かったという変態。札束の入った封筒、感謝の手紙などなど、どうやら日本中から送られてきているようで、すなわち、精通を迎えた日本男性が少女と夢の中で逢瀬、夢精しているようなのだ。

 それで少女は最近の父親と弟の態度が妙だったことに合点がいった。そして吐き気がし、トイレに駆け込んだ。全国の男共に裸を見られ、そして……と便器の中の吐瀉物にも精液が混じっているような気がしてならなかった。

 この奇妙な現象はすでにネット上で大きな話題となり、次いでテレビも取り上げた。テレビ局は一応、個人情報は伏せてはいるが、少女の家の電話は取材で鳴りやまない。

 一体この現象はなぜどうしてそしてどうしたら収まるのか。思春期特有の抑圧された思いが、少女の性への関心が引き起こしたある種のテレパシーのような……と専門家を名乗る連中が御託を並べるのは目に見えているが、原因解明までのんびり待っていられない。

 男連中からの性欲塗れの邪な念と母親含む女連中から嫉妬まみれの怒りの念の板挟み。そしてこのままでは実際には性行為を行ってはないと言えど、妊娠も有り得るのではないか。なにせ数が数の上に、この現象は強まっている節がある。それに夢と現実を混同し、暴走した阿呆が今に迫ってくるやもしれない。身の危険を感じた少女は変装し急ぎ、町中を駆けずり回って貞操帯を探した。

 

 そしてその晩、装着。就寝。

 夢に反映されるかどうかはわからなかったが、少女は企みがうまく行ったと確信した。

 なぜならその夜、眠りについた少女を叩き起こしたのは貞操帯を探しているとき、たまたま見つけ購入。この夜装着したレイプ防止用コンドームのトゲにペニスをズタズタに裂かれた日本中の男たちの絶叫だったからである。

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