第6話 オルレインの町
~翌日~
「さあ、張り切って行こう!」
俺はは、珍しくみんなに発破をかけた。
今日は、屋台で果物トーリンを売る日だからだ。
町に設けられた公園には、常設店だけではなく屋台も開設でき、屋台での出店は町役場へ届出ればOKだ。
我々ハテナ村一行は、割り当てられて場所に幌馬車を止めた。
ゼラが皮を剥いて、俺が売り子になるって段取りだ。
もちろん、俺が売り子になるのは反対されたが、リリーが用心棒なら安心と言うとリリーが折れてくれた。
なんとなく、人の扱い方のコツが分かってきた。
”ふふっ”、小悪魔になった気分!
さてさて、学園祭ののりが功を奏してトーリンは次から次へと売れていく。
「いらっしゃい! いらっしゃい!
美味しい美味しいハテナ村のトーリンだよ!
そこの綺麗なお姉さん! お一つどうですか!」
若い男が売り子をすることは珍しく、声かけするのも珍しいそうだ。
それに、トーリンの程よい甘さと食感が人気を呼んだ。
「お! 兄さん、可愛いね。 君はいくらだい?」
とやんちゃそうなお姉さんが寄ってきた。
やっぱりそうなるか?とリリーが出てくるが、俺はリリーに大丈夫と目配せする。
「ごめんなさ~い、俺は売り物じゃありませ~ん! そのかわりほら!」
とトーリンを一口放り込む。
「う、美味い!」
「そうでしょ! ほら、もう一口あ~ん」
「わ、悪くないないな。こう言うのも」
そう言うと、そのお姉さんはトーリンを大量に買ってくれた。
リリーは対したもんだと褒めてくれたが、リリーのおかげで人の扱いのコツが分かったとは言わないでおく。
ほんの数時間で今回持ってきたものは売り切れてしまった。満足満足。
とそこへ、いかにも金持ちらしきチャラ女がニヤつきながら近づいて来た。
「私にも一つ貰おうか!」
「ごめんなさい。もう売り切れてしまって無いのです。」
「なんだと~!」
言葉とは裏腹にまだニヤニヤして気持ちが悪い。
何者なんだ?
さすがにリリーが間に入ってチャラ女を牽制してくれる。
「おっとっと、私を誰だか知っているのか? 気を付けた方が身のためだぞ~」
リリーの強面にも動じず、なおもヘラヘラとしてうそぶくチャラ女。
「ふん、知らないね」
とリリーも負けじと一触即発の気概を見せる。
「ギャールスネイカー、この町の商業を牛耳る商家の娘だ」
と、屋台の奥から村長さんの声がした。
「ふふ~ん、分かっているじゃ無いか! さぁ、どうする?」
こいつ、わざとやっているな。
敢えて閉店間際にやって来て無理難題をふっかけているのだ。
けれど、領主や貴族ならまだしも一介の商人がなぜこんな尊大な態度なのだろうか? 商家と言いながら的屋の縄張りということなのだろうか?
すると、ゼラがごそごそと奥から”つやっつや”のトーリンを出して来て俺に渡してくれた。
「・・・後でシンに食べさせてあげようと思っていた」とぽつりと呟いて。
“ありがとう!ゼラ”
ちょっと腹立たしいが、不気味な奴をわざわざ敵に回す必要もない。
俺は心をリセットした。
お客様は神様だ。冷静に平静に…。
「良かったですね、お客さん! 最後の一つですよ。はい、あ~ん」
とにっこり笑い、ギャールスネイカーの口に放り込む。
「う、うん。・・・美味いな。それにお前も悪くない」
トーリンを食べながら、俺を上から下までジロジロと舐め回すように見ている。
“キモ”
キモいわ~。普通にしていればそこそこ可愛いのに、どうして彼女はこうなったのだろうか?
自然と疑問が湧いて首を傾げる。
「よし、合格だ! こいつを売りたかったら家で引き取ってやる。ここで、ばら売りするよりは儲けさせてやるぞ」
とニヤリ笑った。
気持ちは悪いが村にとっては良いは話だ。
「お前は、・・・シンとか言ったな。まぁ、今は良いか」
そして、”またな”を捨て台詞にギャールスネイカーは去って行った。
「「「・・・何なんだあいつは!」」」
と一斉に突っ込みつつ、しばし苛立つ一同。
まぁ、でも結果的に販売ルートができたことは良いことだと思う。
村長さんの話では、ネイカー家は商売が上手く、金の力で貴族並みの影響力があり、今や領主に迫る勢いだそうだ。
△△
さて、本日の売り上げを元手に、商店街に買い物に行くことになった。
商店街を歩くのに、俺を中心にして三人がトライアングル状に布陣した。
まるで護衛されているみたいだ。
率直にこの感想を言うと、リリーが”当たり前だろ”とコツンと俺の頭を小突く。
ゼラまで、”さっきの様な変な奴がいるかもしれない”と真顔で言う。
村長さんは黙って頷いている。
恥ずかしいが、このフォーメーションで歩くしかないのか…。
実際、すれ違う人たちは驚いた様な表情で俺を二度見している。
「は、恥ずかしい…。」
と照れている俺を見てゼラは”か、かわいい”と呟いていた。
ゼラの方が可愛いのだけれど。
△△△
さて、まずは子供達の文房具だ。
店に入ると、店員から客まで一斉に俺たちを見る。
まぁ、そうなるのだろうね。
若い男ってだけでも目立つのに、このフォーメーションだから。
ゼラと鉛筆を選んでいると、一人のカッコ良いお姉さんが声をかけてきた。
すると、すかさずリリーがその人を連れて行ってしまった。
いや、多分文房具店で”ナンパ”は無いと思うけど、うん。
リリーは、直ぐに戻って来て、”理解のある人で助かった”と言ったので、大丈夫だったのだろう。
そして、次は本屋さん。
村では、圧倒的に本が足りない。
と言うか ”無い”。
本に興味を持てば自然と識字率も上がるはずだ。
子供たちの教育はもちろんのこと、ひいては村の発展の一助になるはず。
みんなの喜ぶ顔が目に浮かぶと微笑む村長さん。
ああー、やはり村長さんって村長さんなんだなと思った。
最後に、ゼラの提案で俺に服を買ってくれることになった。
頑張った俺に特別に服をプレゼントだそうだ。
照れくさいが、ありがたくいただこう。
まぁ、でもこの買い物が一番揉めた。
俺としては、この世界の男っぽい服装はイマイチだと思っている。
実際、ゼラ達が選んでくれたのは、ピンクのフリフリのワンピースだった。
”いや、それは無い! 無理!”
といくら俺が言っても3人はなかなか言うことを聞かない。
18歳の男にこれは無いよ~。
せめて、シャツとパンツにしてほしい。
ヒラヒラとかフワフワとか言うのはマジで勘弁してほしい。
そう言うのはガーベラが好きそうで駄目だ。(似合うとは言ってない)
どうしてもと言うので、試しに一度着てみたが・・・・。
「ま、マジで駄目だよ、これ・・・。」
「一度、回ってみて!」
ゼラに言われるがまま一回転したが、俺の羞恥心が限界にきて、早々に試着室へ逃げた。
その間に、店内ではけっこうな見物人が集まり、ざわざわとした騒ぎがあったらしい。
結局、白を基調とした、ブルーのキュロット(長め)で妥協した。
あゝ~、これからこの服を常時着るのだろうか・・・恥ずかしいな。
俺の感想は別にして、店内の見物人達が”うんうん”と頷いている。
似合っていると言うことらしい。
日本では、”男の娘”と言ったかな?
元より俺にはこういう可愛い系の趣味は無いのだけれど…。
多分、この世界ではこれが標準なのだろう。
俺が諦めたように苦笑いをすると、ゼラとリリーが親指を立てて”グー”としていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ランキングが上がると嬉しいです。
よろしくお願いします。