表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/23

第5話 ハテナ村の王子

~ハテナ村~


授業のある日は、昼食を子供達みんなと一緒に食べる。

基本的には一部の子を除いて弁当持参だ。

弁当の無い子には給食が出るが、これを目当てに来る子もいる。

この村にも多少の貧富の差があるのだろう。

親が忙しいとか怠けているとかの事情もあるのかもしれない。

配給役は、通常ゼナがするが俺も手伝うことになった。


「なんで今日はこんなに多いの!」


とゼラが並ぶ子供達を見て驚きの声を上げる。

…とは言うものの、並んでいるのは俺が配る野菜スープの前だけだ。

弁当を持って来ている子まで並んでいる。

ゼナの野菜スープは美味しいからね。うん?そうじゃない? 


「ふふっ、楽しいよね。」

「シンは、優しすぎるよ。僕たちの分が無くなってしまうよ」

「まぁ、良いよ。無ければないでトーリンを食べに行こうよ」


“じゃー、僕も行くー”と横から言うミラに、ゼナが”キっ”と睨みを効かす。

ともあれ楽しい昼食だ。。。

こんなの小学生以来かな。


◇◇


午後からは、村の事務仕事だ。

月に一度、村から町役場に報告書を提出しており、町役人を通して領主様まで届くそうだ。

村長さんの村長たる仕事だ。

しかし、報告書と言っても税にかかわる収穫量や人口など急激に変化することもなく、普通は日常の平凡な報告だけだと言う。

まぁ、今回は“俺”の報告がメインになるそうだ。

俺には、この報告が良い方に行くのか、悪い方に行くのか見当も付かない。

村長としては、事実を事実としてのみ報告し、“迷い人”の表現や推測はしないとのことだ。

つまり、判断は全て町役人にお任せになり、領主まで上程するかどうかも分からない。

そして、来月の報告には俺も町役場まで同行するように言われている。

”人が急に出現した”なんて、にわかには信じがたい話だからね。

俺が行けば、少なくとも存在している事実の証明にはなる。


実は、俺も町に行くのは楽しみにしている。

都会の喧噪が懐かしいと言う訳では無いが、やはり物欲と言うか、この世界の物を色々と見てみたいと思っている。

ひょっとすると、日本に戻れる方法が見つかるかもしれない。

この村は、基本的に自給自足の生活なので、人頭税と収穫量に見合った税が課されている。

そして、男子は無税である上に国から出生報奨金・育児奨励金が出る。

俺の場合はすでに大人だし、不審者扱いなら国からお金が出るとは思えないのが残念だ。

さて、どうなるか。

いつまでも居候と言う訳にもいかず、自分で稼げるようにならなければならないのかも。

まぁ、なるようになれだ。


~2週間後~


村の生活に少しずつ慣れていった。

おばさん達女性陣とはすぐに仲良くなれたが、男性はもともと少ないこともあり、出会うことすら滅多に無い。

内向的な子が多く、可愛くもないので別にいいかと思う。

男友達が出来ないのは少々辛いのだけれど、ガーベラのように敵対心を向けられると良い気はしない。

まぁ、ガーベラの場合はゼラを俺に取られると勘違いしていることが原因らしいが、誤解が過ぎる。

ゼラの様な美少女が俺に気があるとは思えない。

この村では、ゼラとガーベラが美男美女カップルと言うのが共通認識だそうだ。

この世界の基準ではそうなのだろう。

俺は、二人が付き合っているかどうかまでは知らないが、若い二人が相思相愛なら俺の出る幕は無いと思う。

少なくとも今のゼラと俺とは、居候させてもらっているだけの関係だ。

誰かに聞かれてもそう答えるようにしている。

このことを村の若い女性達が聞くと安堵の表情をするそうだが、特に俺へのアクションもないので、おそらく勘違いだろう。


おばさん達は、いつもギラギラしているが年齢層が少し高いので、ガーベラの様な若すぎる男の子を追いかけている感じはない。

むしろ、成人男子?に目が向いていて俺は少し怖い。

うん、そういうのに全然慣れないな。


△△△


さて、いよいよ町へ行く日が来た。

村長、ゼナとそれにリリーを入れた4人がほろ馬車で出発する。

今回、俺の発案でトーリンを持って行くことになった。

ひょっとすると屋台で売れるかもしれないと考えたからだ。

屋台も幌馬車の後部をそのまま使えば良いし。

もし成功すれば、村にとって貴重な現金収入になる。

自給自足のハテナ村でもやはり現金は必要だと思う。

便利な魔法があるだけに村人達にはそういう発想はないのかもしれない。

でも、筆記用具や食器とか、何より子供達には本が要ると思う。


のどかな風景、遠くの山、草原の中をほろ馬車は進む。

馬車を引いているのは、村で飼っている雌馬。

馬も雌なんだね。

俺にはすぐに懐いてくれたので可愛いから良いのだけど。


他愛の無い会話の中、馬車はカポカポと進む。

御者を務めるリリーがふいに強面で話をする。


「シン、町では絶対に一人になったら駄目だぞ。必ず誰かと一緒にいるんだ」

と真顔で注意された。


治安が悪いということかな?

現代日本に例えると、年頃の女性が繁華街で一人歩きするようなものなのかな。

でも、そうそう性犯罪?があるとは思えないし、俺がモテる?のもハテナ村だけかもしれない。

それに、俺はこう見えて体術には自信がある。

そう簡単に力でねじ伏せられるとは思わない。

だから、リリーにはそっと“ありがとう”とだけ言っておく。


△△△△


町だ!

煉瓦造の建物がある。道路が石畳にかわっている。

さすがに町だ。

商店もあり、人々が行き交っている。

パラパラと男性の姿も見える。

意外だけれど、男性が居ると言うことで少し安心している自分がいる。

ただ、美的感覚が現代人と違うのか、少女っぽいファッションをしているのは辟易する。

なんとかならないのだろうか?


そう言えば、、、俺たちとすれ違う人達は振り向いてこちらを二度見する。

まさか、俺の服装のせいだったりするのかな。

それとも、ハテナ村と同じようなことなのか、その視線の意味が分からない。

自意識過剰なら恥ずかしいので、この考えは脇道に捨てておこう。


さて、宿屋に着いて一息入れた後、我々一行は町役場へ出向くこととなった。

第一の目的だからね。


△△△△△


町役場に入ると、またもや注目の的となった。

居合わせた者達が一斉にこちらを凝視する。

あ、あれ? やはりそうなのかな?

首を傾げて照れ笑いすると、辺りからため息が漏れ出した。


村長はかまわず担当窓口らしきところへ突き進む。


「それで、この方がその本人と言うことですね」


と、いかにも役人という感じの女性職員がジロリと俺を見た。

軽く会釈をして彼女を見詰めると、照れくさそうに視線を外されてしまった。

そして、事務的な質問が続いたが、村長の報告書に書いてある通りの内容だ。

うん、事務的な対応ですね。こういう所だけは、どの世界でも同じなのかな。

だが、唐突に「今後、シンさんはどうしたいのですか?」と問われて、俺は固まってしまった。

どうしたいと問われても…、しばし思考するが選択肢が思いつかない。

困って村長の方を見るが、黙って頷くだけだった。

好きにしろと言う意味らしい。


「しばらくは、ハテナ村に居ようと思ってます・・・」


と答えると、職員さんは驚いた顔をする。


「え! 役場に保護を求めないのですか? なぜ? どうして?」


どうもこの職員さんは、俺をどこぞの貴族の家出息子と思っている様だ。

そう言う事例が多いのか・・・。わがまま令息が多いのか・・・。

まぁ、俺は本物の流浪人なので、この町の制度も知らないし、利用の仕方もしらない、本当に本当の異邦人なのだ。


慌てた職員が、この町で過ごすことも可能、もちろん宿代・食費も公費で賄うと説明してくれた。さらに相応の衣服など望むものは全て提供すると。

急に好意的な態度になったが、若い男性は貴重であり、子爵領役場としても保護する方針なのだそうだ。

なんなら自分が匿っても良いとまで言ってくれた。

(それは、ちょっと遠慮)

どうも、俺が村に戻りたいと言ったことが意外すぎたらしい。

俺は、村長さんに目配せし、しばらくハテナ村で厄介になりたいと訴えた。

ゼナとリリーは、嬉しそうに”うんうん”と頷いている。


深いため息をついた事務員さんは、行方さえ明確ならかまわないとしぶしぶ納得してくれた。

最後に、小売り屋台の許可を取って町役場を後にした。


…すぐに町役場では噂話に花が咲くのだが、俺には知る由も無かった。


”ハテナ村の王子”と

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ