第4話 ハテナ村
~翌朝~
ぱっちり目が覚めた。
ここはどこだっけ?
見慣れない部屋をきょろきょろ見回すと、やっと現実感がわいてくる。
あゝそうだった。
ここは、見ず知らずの世界だ。
ふらっと旅行をした時のあの感覚ではない。
そして、俺は“迷い人”として保護され、村長とその娘である美少女宅で居候させてもらうことになったのだ。
”スン”と真顔にある。
俺は居候の身、現実を直視し、とっとと起き上がろう。
リビングに行くと、すでに村長さんが朝食の支度をしているところだった。
完全に出遅れたな。
「おはようございます」と少し元気目に挨拶すると、村長さんも「ああ、おはよう、よく眠れたかいシン?」と優しく返してくれた。
他愛もない会話を続け、何か手伝えることは無いかと尋ねると、村長さんは意外そうな顔をしながらも、畑にいるゼラのところへ行ってくれと微笑んだ。
どうやらゼラは働き者のようで、朝早くから農作業をしているそうだ。
”よし”、俺でも多少の力仕事なら手伝えるぞ。
△△
外に出ると、麦わら帽子のゼラが畑で作業をしている。
昨日と違って農作業用の服がラフな感じで涼しそうだ。
隙間からチラチラと小ぶりな胸が見え隠れしていて気恥ずかしい。
ゼラは、なにを着ていても美人だと思う。決してスケベ心だけではない。
俺もほとんど同じ服装で、俺の胸ならいくら見てもらっても良いのだけれど。。。
「ゼラ~、おはよう!」
あれ? ゼラがこちらを見て固まっている?
仕方がない、もう一度だ。
「おはよう! 何か手伝おうか?」
元気よく手を振って見せると、フリーズが溶かれた様にゼラが動き出す。
そして、驚いた顔から和やかな顔に変化していく。
「あ、あゝ、そうだな…、ここはもう終わったから、山へ果物を採りに行こう」
ゼラは、採った野菜を籠に入れ、にっこりと笑った。
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なにこれ、可愛い過ぎるだろ。
早起きで、元気に挨拶してくれて、畑を手伝いに来てくれるって、、、
それに薄着で無防備過ぎるよ、シン。
理由を付けて着替えさせないとな。
他の誰かに見られたら大変だ。
△△△
山に入ると、すぐにフルーティな香りに包まれた。
「わぁ、いい匂い」
見回すとピンク色の果実が鈴なりになっており、トーリンと言うそうだ。
「うまそうだね~」と続けて言うと「普通だよ」となぜかゼラは素っ気ない。
なんでも、季節も関係なく大量に生っているので有り難みはないそうだ。
まぁ、子供達のおやつとしては重宝しているらしい。
ゼラが一つもぎ取って、シュシュッと皮を剥いてくれた。
「うん、美味しいよ!」
噛んだ瞬間、ジュワッと果汁が溢れ、口の中に爽やかな甘みが広がる。
桃の味に林檎の食感を足した様な感じだ。
「そう? 良かった。食べたくなったらいつでも食べに来たら良いからね」
「本当? 勝手に食べて良いの?」
「もちろんさ。誰のものでもないからね。ただし、一人で森に来ては駄目だよ!」
ん?不思議そうに首を傾げると、「だって、危ないじゃん」と返ってきた。
どうも俺一人では襲われるらしい、誰から?おばさん達から?
そんな心配いらいないと思うけど・・・、昨夜のお風呂の件もあるので、あながち的外れでもないのかもしれないが。
自分が性の対象として、ギラギラと見られることに違和感しかない。
ゼラにそう見られたら嬉しいけれど・・・まぁ、ないか、ないよね?
ふとゼラの方を見ると、こちらを直視していて少しびっくりした。
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朝食は、3人でテーブルを囲む。
献立は、村長さんが魔法で焼いたパンと、ゼラが今朝採った野菜で作ったサラダと、スープ、そして森の果物トーリンだ。
どれも美味しくて、食卓はとてもなごやかな雰囲気に包まれている。
パンは、日本で流行りのクリームやバターこそ入ってないが、素朴な味で風味がとても良い。
村長さんが、魔法でこねたり焼いたりして作ったそうで、性質の良い魔力が宿るほど美味しくなるそうだ。
”なるほど”と村長さんのパンを褒めると、村長さんもまんざらではなさそうだ。
もちろんサラダも美味しい。
ドレッシングこそないが、野菜そのものがみずみずしくて美味しい。
ゼラの魔法で出した水で育てたのだろうか?
そのことをゼラに聞くと、大きくうんうん頷いたので、ゼラの愛情が入っているのかもね?と言うと頬を赤らめていた。
「うん、美味しいよ!」
△△△△△
さて、朝食を終えるとハテナ村居候生活の一日が始まる。
基本的に村長さんの仕事を中心に回っている。
村長さんは、村の代表なだけあって、行政官であり警察官であり教師でもある。
ゼラはその補佐と言ったところで、将来、村長になるのだそうだ。
午前中は、子供達に勉強を教えている。(だれでも自由参加かつ無料)
勉強と言っても、日本式の暗記ものではなく、生活や実用的なものだ。
中でも魔法は人気科目で、火、水、風、光を基にした生活魔法と言ったところ。
ゼラがお湯を出していたのは、水魔法に火魔法を加えて温度を調節していたのだそうだ。
その他にも魔法の種類はあるのだそうだが、この村では教えていない。
魔法の授業を見学させてもらったが興味深くとても面白かった。
不意にミラが俺に向かって風を吹かした。
風魔法の練習かな。
すると、風で衣服が”ばさばさ”とめくり上がってしまった。
お腹から胸の辺りまで露になり、周囲で変な歓声が上がる。
「わー、凄いねミラ!」
とやや場違いな感嘆の声かけをしてしまった。
ミラが狙ってやったのなら、凄いコントロールだと思ったのだが・・・。
あ、あれ? 生徒内で変な空気が流れている。
ミラはミラで褒められて何だか気まずそうにしているし。
これって、恥ずかしがったり、怒ったりする場面? 悪戯を褒めちゃった?
そして、ゼラが凄い勢いで飛んできてはミラを睨み付け、
「なんてことするんだ!」と怒っている。
俺は全然平気なんだけど・・・。
「あいつ! 不埒な目でシンを見てる!」
と、ゼラの怒りは全然治まらない。
男の肌ってそんなに見たいかな?
ゼラに着替えるように言われた時に、素直に従って入れば良かった。
△△△△△△
算数は、小学生レベルだけれど、物の数え方や損得勘定には必要なものだ。
そして、これくらいなら俺にも手伝える。
落ちこぼれさんのところへ行って教えてあげるのだ。
勝手に助手のまねごとをしてしまったが、意外と好評だった。
「シン君、良いにおい~」と、ませたことを言う子もいて、女子はやはり匂いに・臭い?には敏感なんだなと思ったのは秘密だ。
そう言う子には、「もう教えてあげないよ」と言うと、大人しく言うことを聞いてくれる様になった。
ませていてもまだまだ子供だよね。
俺には、魔法は出来ないけれど、少しでも役に立てたら嬉しい。
地理や歴史の授業では俺も生徒だ。
なんせ、この国のことは何も知らないのだから。
子供達に混じって聞き入っている。
「シンって極端だよね~」とミラが冷やかす。
「しょうがないだろ、違う世界から来たんだから」
と返すもミラは嬉しそうに笑った。
「大丈夫、僕が養うから。まぁ、馬鹿で抜けてるところも可愛いのだけど!」
ミラって妙に大人びた事を言う。
授業中でもお構いなしに口説いて来る強心臓がおそろしい。
「言っておくけど、俺は大人だからね!」
と言うと、ミラは驚いた顔であんぐりしていた。
俺が大人だと言うことを知ると、なぜかゼラと同じ反応だった。
やはり、この世界では男性に対する基準が甘い気がする。
体感だが+5くらいだろうか?
そうだと俺が超美青年になってしまうのも辻褄が合うのだけれど、、、。
「18歳だからね。俺は!」
「う、嘘?」
「本当だよ。」
「ろ、6歳差ぐらい、どおってことないさ」
「そうかな? 元の世界に子供がいるかもよ~、なんてね」
と冗談めかして言うとミラは俯いてぼそぼそと独り言のように言った。
「シンは大人だから…、そう言うことはもうしてるの?」
珍しく恥ずかしそうだ。まだまだ子供だよね。
”ふふっ”と笑って誤魔化してやった。
現代日本でも女子はませていると言うけれど、こちらの世界でも同じなんだな。
小学6年生くらい?のミラが少し可愛く見えた。
いや、元々美少女なんだけれど・・・。
俺が授業に出ているとの話が村中に広がると、おばさん達の参加が急増するのだが、これは少し先の話。
お読みいただきありがとうございます。
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