第3話 魔法
~ ふたたび村長の家 ~
ゼラがお風呂に入れてくれると言うので喜んでついて行った。
この世界でお風呂に入れるとは思っていなかったので、とても嬉しい。
風呂場に行くと、ゼラが両手からお湯を出しはじめた。
「ええ! 凄い! どうやってるの?」
ゼナの掌から湯気とともにお湯が吹き出てバスタブに注がれている。
俺は興奮してゼナに飛びつき、肩越しにしげしげとお湯の流れる様を見る。
「ちょっとシン、近いよ・・・ 別に僕はかまわないけど、ごにょごにょ」
「あっ、ごめ~ん。つい・・・」
「ああ、うん、それより湯加減はどう?」
「うん、ちょうど良いよ。ありがとう」
とお礼を言うと、ゼナは少し照れたように顔を赤らめザブザブとお湯を注いでいく。
「それで、このお湯ってどうやって出しているの?」
俺は、わくわくドキドキが止まらず、ゼナの掌と顔を交互に見詰めた。
「・・・っ///、簡単な生活魔法だよ。ちょっと練習すれば特に珍しいものじゃないよ」
「魔法―!」
来た~! 魔法だ! ファンタジーの世界だ!
この世界が、異世界である事は確定していたけど、魔法のあるファンタジーの世界なら“あり”だ。
俺は、興奮しつつも肝心な質問を続けた。
「お、俺にも出来るかな? 今は出来なくても練習すれば出来るようになる?」
「えっと、、、それは、・・・・。」
「それは!」
「ちょっと難しいかな?」
「え!?」
「男性には魔法は使えないよ、だから多分シンも・・・。」
と、申し訳なさそうにゼナが言う。
あゝ、そうなんだ。・・・、残念だ。
せっかくのファンタジー世界が…、いやそれだけではない。
男が魔法を使えない世界…だから男は少ないのか?
劣等種なのか?
頭の中を不愉快な推測がグルグルと回る。
”男は守られるべき弱い存在”とリリーと村長さんの会話にもあった。
なんにせよ、俺にとって碌でもない状況と言うことが明らかになった。
ゼナの説明では、魔法を使うには空気中の魔素を体内に取り込み、魔力に変換する能力が必要で、女性であってもその能力の差は大きいそうだ。
運動能力などと同じで、ある程度の努力は必要だが、持って生まれた才能の差もあるらしい。
そして、男性にはそもそもその能力≒器官が無い。
「まぁ、でも世の男性は、なにがしか女の保護を受けるから生活に不便を感じることはないと思うよ」
「そ、そうなの? でもそれって・・・保護と言うより庇護と言うか…」
「シンにだって、僕が側にいるから」
「あ、ありがとう?↘」
言いかけた言葉を飲み込み、俺はうつむいた。
ゼナの申出はありがたいけれど、いつまでもお世話になる訳にもいかないし…。男の独り立ちは想定できない世界なのかもしれない。
”力”で勝てないってことは、想像よりもキツいものなんだな。
「何かあったら呼んでね! ”ふんす”」
とゼナが気合を入れているので、俺は顔を上げると、ゼナは瞳をキラキラとさせていた。
ゼナが、何を張りきっているのか今一分からないが、ありがたく受け入れよう。
何より湯船に浸かりたい。
「それから、外には母さんが待機しているから安心して!」
「うん? 外で待機? ・・・ありがとう」
なんだか分からないが、風呂に入るのに・・・外で待機?
この世界にはそういう習慣があるのだろうか?
△△
”ザパ~ン”
お湯をかけて湯船に浸かる。
「あゝ、気持ちいい~! お風呂最高!」
日本人は、やっぱりお風呂だよね。
なんでも、ずいぶん前の迷い人が考案して、瞬く間に広まったそうだ。
うん、先人に感謝だな。
しかし、男に魔法が使えないのはショックだ。
ひょっとすると、地球の大気にも魔素があって、ここの女性なら魔法を使えたりして・・・。
窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素・・・、う~ん無いな。
やはり、この世界は異世界なのだ。
地球の常識や定規で推し計るのは止めた方が良さそうだ。。。
「シン! 湯加減はどうだい?」
外から村長さんの声だ。
俺は、窓から顔を出し「ありがとうございます。丁度良いですよ」と答えた。
すると、村長さんはこちらを凝視し、固まってしまった。
”つー”と音も無く、村長さんの端正な顔から鼻血が流れ出て来る。
「あ、あれ?」
俺のせい? かな?
外からは、上半身…、いや、鎖骨ぐらいまでしか見えてないはずだ。
仮にバストが見えていても、平たいだけだしな・・・男のそんなもの見たところで扇情を煽るようなものでもないと思う。
「あ、あ、あの村長さん? 大丈夫ですか?」
「何でもない。大丈夫だ。それより早く窓を閉めなさい!」
「は、はい!」
俺は驚いてすぐさま窓を閉めた。
・・・村長さん、少し怒ってたな。
顔は真っ赤だったし。
村長さんの後には、なぜか拘束された女性たちが・・・中には広場で会ったおばちゃん達も数人混ざっていた。
うん、これでは修学旅行で女子風呂を覗く男子生徒の様だ。
村長さんとゼナは、男性の入浴に備えていたんだね。
もしかすると、村長さんの夫さんがいた時にもこのように待機していたのかもしれない。
しかし、俺には女性のような羞恥心は全くないし、持てそうも無い。
女性たちが照れているところは見たいけれど、、、。
いや、肌を見せたい訳ではないよ・・・多分…ね。