第2話 村の少年少女
~ 村長の家 ある部屋 ~
「この部屋でしばらく過ごすと良い。ここにある服も自由に着てもらってかまわない。今の服装は目立ちすぎる」
村長さんは、事務的に、だが決して冷たい口調ではなく部屋を案内してくれた。
「ありがとうございます。・・・ところでこの部屋は?」
色々と私物が置かれており、最近まで誰かが居たような部屋だ。
俺が使わせてもらっても本当に良いのだろうか。
「ああ、夫のだ」
そう言うと、村長さんは少し哀しそうに笑った。
死別か何かあっただろうことは想像に難くない。
「本当に良いのですか?」
「気にしなくて良い、もう二度と使われることは無いからな。みっともないが残しておいて良かった。シンが使ってくれると嬉しい」
村長さんの心情は俺には分からないけれど、どこか吹っ切れたような表情をしていおり、
なぜか、俺の男心が”キュン”とした。
凛としたナイスミディの村長さんのこの表情では仕方がないよね。
△△
「ふう」
一人になって、やっと一息ついた。
夫さんの普段着らしい服に着替えよう。
なんとなく大人しい感じの人だったのではないかと想像する。
村長さんは、あんな風に言ってはいたが、本当に良かったのかな…。
さて、今後どうするか?
鞄とポケットを探ってみるが、めぼしい物はほとんどない。
日本のお金は何の役にも立たないだろうな・・・。
少しの常備薬と、筆箱、お菓子・・・ノートや教科書ぐらいか。
村人たちの好奇な目は痛いし、不安しかない・・・どうなるんだよ、俺。
しばらく呆けていると、ゼラが村を案内してくれると言う。
ここは、大人しく付いて行くことにした。
△△△
ハテナ村は、人口300人程の小さな村だ。
”迷い人”の出現はあっという間に広まったようで、何処へ行っても注目の的だ。
特に子供たちは顕著で、容赦がない。
遊びもそっちのけで、取り囲まれてぐいぐい近寄って来た。
おばさん達ほどの圧がないのが救いだ。
うん。正直に言うと女の子ばかりなので嬉しい。
若すぎるけれど……、小学生の高学年くらいかな。
中でもミアは、とても可愛い美少女だ。
東京なら、こちらから話しかけでもしたら逮捕されるのではないだろうか?
そのミアは、外観だけではなく、腕力の方でも子供たちを牛耳っている。
周りの少女たちを蹴散らして、「ねえ、お兄さん! とっても可愛いね。僕が大きくなったらお婿においでよ!」な~んて、ませたことを言って来る。
まぁ、子供の言うことだから、微笑みで返しているけれど、隣にいるゼラはミラを凝視して、まるで目で威嚇しているようだ。
それでも、ミアは怯むことなく口説き文句を並べる。
「ねえ、一緒に町へ出ようよ。僕が稼いで楽をさせるからさ」
ああー、ミラが男なら典型的な駄目な奴だね。
色々と溺れて身を持ち崩すタイプだよ。まぁ、でも子供の言うことだからな。
「ふふっ、ねえミア、気持ちは嬉しいけれど、誰かに養って貰う気はないよ」
「え! 何で? こんなに綺麗なんだから楽して生きていけるよ」
う~ん、ミア、 そこまで俺は綺麗でもないと思うんだけど……。小さな村だからそう思うのかな。
大学では、口さがない女子達から”8点”なんて言われていたしね。
やはり、子供はもっと広い世界を見た方が良いのだろうね。
ここは一つ、お兄さんがものを教えてやらないと。
「俺はね、誰かに依存して生きるなんてまっぴらなんだ」
と男の生き様とうものをビシっと言ってやった。
ちょっと強く言い過ぎたかな? ミアどころかゼラまで驚いている。
「「お、俺?」」
驚くのはそこなのか! 子供相手でもちょっとフランク過ぎたのか?
かと言って”僕”と言うのもこの歳では違う気がする。
「えっと、ミア、貴女が大きくなったら、そうだな…、俺の愛人にしてあげるよ。ふふっ」
誤魔化すつもりで言ったのだが、ミアは見る見る紅潮して目を輝かせた。
「本当! やったー! 絶対、お兄さんに相応しい女になるから!」
今でも充分可愛いんだけど……。
まぁ、余計な事を言ってやる気を削ぐのもどうかと思い、頭を軽く撫でてあげると、いっそう嬉しそうに照れていた。
可愛いぞミア!
△△△△
ミアや子供達と別れてしばらくすると、ゼラがそろりと口を開いた。
「さっきの話って本気なのかい?」
「ミラとの話のこと? まさか! ミラは可愛いから大きくなったら俺の事なんか直ぐに忘れるさ」
ゼラは訝し気な表情で深いため息をついた。
~~~~~
それと同時に、シンの男性らしからぬ言動に胸が高まっていた。
明らかにこれまでの男性とは性質が違う。
美人なのは間違いないのに、全くそれを鼻にもかけず気さくに話す。
この村では男性が少ない。いや、国レベルでも状況は同じだ。
その為、夫を娶る競争は激しくなり、男は必然的に我儘に、軟弱になってしまう。
ところが、シンからはそういう態度が全く見受けられない。
それに、自立しようとする気概がどこか父を思い出させる。
〜〜〜〜〜
△△△△△
小さい村だ。
あっという間に一周してしまった。
特筆すべき出来事は、さきほどのミア達とのやり取りくらいで、特に何もない穏やかな村だ。
それにしても男性が少ない。
見かけても、直ぐに家の中に入るか逃げるように去ってしまう。
すると、ゼラが気を利かせてくれたのか、年頃の男の子の家に連れて行ってくれると言う。
ただし、話せるかどうかはその男の気分次第だそうだ。
「やあ、ガーベラ。ちょっと良いかい?」
ゼラが、窓に佇む少年に声を掛けた。
おおー、男の子だ。ミラより1~2歳上くらいか? もう少し上かな?
グレーの髪を綺麗に整え、なよっとした細身を壁に預けている。
東京なら3点ってところではないだろうか?
だが、その少年は俺を見つけると明らかに不機嫌そうになり、「あいつは誰?」
とゼラの影に隠れてしまった。
・・・なんだろう? この嫌悪感は?。
しかも、その少年からは嫉妬が混じった焦りが感じられる。
妙なライバル意識とでも言うのだろうか。
まぁ、中学生くらいの子に嫌な思いをさせてしまった事は間違いない。
「御免ね~邪魔して。ゼラ、また今度にしようか?」
とあくまで大人な台詞で逃げる。
すると、ゼラはガーベラと何やら話していたが、すぐに会話を終了して踵を返してきた。
「それじゃ、帰ろうか」とゼラが言うので、まぁそんなものかと思いつつ、ガーベラに向かって、「またね!」と言って手を振った。
ガーベラは、少し驚いていた様だが、俺は余裕の微笑みを返してあげた。
「なんか、ごめんね」
「まぁ、しょうがないよ。いきなり成人男性を紹介されても、男の子には苦痛でしかないと思うよ」
俺は、申し訳なさそうに謝るゼラへ苦笑いを添えて正論を返した。
「え! 成人?」
「うん? そうだけど、そこって驚くとこ?」
ゼラは、いぶかし気な顔で続けた。
「シン・・・さんは、いったい何歳なんですか?
いや、男性に年齢を聞くのもどうかと思うのですが・・・ごにょごにょ」
最後の方は仕切れトンボの様に聞き取れないが、バツが悪そうなのは見て取れる。
急に敬語になっているし。
「普通に18歳だけど・・・もしかして18に見えないかな?」
と首を傾げて答えた。
俺は、今まで高校生に間違われたことなんてないけどな。
まぁ、大学生と高校生じゃ服装ががらっと変わることもあると思うけど。
ゼラは、少し顔を赤らめながらも、少し身を細めて弁解する。
「同い年くらいだと思ってた、、、ました」
「そうなの? それで、ゼラはいくつなの?」
「…15です」
「あはは、若いね~。うん、敬語なんていらないから。
世話になっている身だしね!」
随分と若く見られていたんだ、、、俺って童顔なのかな?
自分では年相応だと思うけど。
「あゝ、、、うん。そう、、、します。
できるだけ、、、うん、そうする」
~~~~~
「どうりで落ち着いていると思った。美人で、優しくて、迷い人で、穏やかで、そして年上か~」
ゼラは、独り言とともに大きなため息をついた。
不思議そうに微笑むシンから、大人の色気を感じながら…。