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第18話 謁見の間にて

~ウエストリア~


俺は今、王城の謁見の間にて、玉座に座るウエストリア女王の前にいる。

女王の傍らには、宰相である小太りの女性が立っており、少し間を開けて第一王女が座っている。

そして、俺の隣にはアスター公爵がおり、宰相の口上により功績を称えられているところだ。

つまり、報告会兼表彰式のようなもので、謁見の間には名だたる貴族達も参加している。


「この度の働きは見事であった。褒美を与える故、何なりと申せ」


噂では頼りないと言われている女王様だが、普通に貫禄があり、威厳もあるように感じられる。

むしろ、小太り宰相の方が気がかりだが、外見で判断するのは良くないと思いつつ、こういう勘は当たるとも思う。

第一王女は、噂通り実直そうで少し堅苦しい感じがする。


「では、お言葉に甘えまして、一つだけ褒美をいただきたい」


アスター公爵はそう言うと、なぜか俺の方を”じっ”と見詰めた。


「シン殿を娶らせていただきたい」


(はぁ!?)


俺は、驚いて公爵の方をガン見した。

褒美なんだから、宝石とか領土が適当なのではないのだろうか?

先日、公爵は自分でそう言ってたよね!


女王の表情は険しくなり、“ざわざわ”と謁見の間内が騒がしくなる。

小太り宰相は首を何度も横に振り、第一王女は目を大きく見開いている。


「心配には及びません。私は王位に就くつもりはありませんし、シン殿を娶った暁には夫婦揃って王家に尽力することを誓います」


この言葉で、女王と小太り宰相は明らかに安堵した表情をした。

しかし、それでも第一王女だけは納得しかねる様な表情だ。


「そうは言うがなライラ、“迷い人”を娶るのは女王と決まっている。それに、いくらお前に王位を継ぐ意志が無くとも世情がそれを許すはずが無い」


「お言葉ですがお姉様、文献には“王族”とのみ記されており、必ずしも女王とは限りません。

 それに、私、ライラック・J・アスターは、二人の姉上のどちらが王位に就いたとしても、生涯お仕えすることを誓います」


「うむむ・・・。」


こうまで言われると、第一王女もうなり声を漏らしつつ沈黙した。

その脇では、小太り宰相が女王に耳打ちしている。

そして、女王が軽い口調で口を開いた。


「ライラの気持ちは分からないでも無い、確かにこれほどの美男子とは余も想像出来なかった。

が、わざわざ遺恨を残すものにせずとも他にも宝はある。今一度他に欲しいものは無いのか? お前の欲しがっていた国宝はどうだ? 領地でも良いぞ」


この親子・・・、発想は同じだな。

そう言えば、第二王女がいないのか?…。

しかし、いい加減俺で遊ぶのは止めて欲しい。


「おそれながら、おれ、・・・僕の意見を言わせていただいてもよろしいでしょうか?」


「おおー、シン殿、声も良いのぉ~、何なりと申してみよ」


(・・・この人もあれだな)


「はい、ありがとうございます。

 では、この度のセントラル説得の功績について言わせていただきます。

アスター公爵のご活躍は周知のとおりですが、説得出来た理由が“迷い人”の存在と言うことなので、私にも褒美をいただきとうございます」


女王は、「ほう」と感心し小太り宰相をチラッと見た。

小太り宰相は小さく縦に頷いた。


「ふふふっ、もっともな話だ。申してみよ」


「はい、私への褒美は“アスター公爵の褒美を取り消す”と言うことにして欲しいです」


謁見の間は、驚愕の空気で満たされた。

栄えある女王の前にて、褒美を打ち消すなどあり得ない。

少なくとも二人が蜜月ではないことも露呈した。


公爵は驚いて、「シンは私のことが嫌いなのか・・・」と、か細い声でつぶやいた。


「そんなことは無いですよ。むしろ好ましいと思っていますよ」

と同じく小さな声で囁いた。

すると、公爵はとたんに破顔し、俺の手を取ってぴょんぴょんと跳び跳ねた。


「けれど、僕を褒美とか賞品にするのは如何と思います。男性(人)を物扱いしては駄目です。

 それに、僕はまだこの世界に来て日も浅く、この世界のことを良く分かっていません。

 その状態で結婚なんてとても考えられません」


「そ、そうだな。ごめんよ。だから嫌わないでくれ」


公爵は、今度は意気消沈して俯いたてしまった。

なんだか、感情の起伏が激しい人だよな。

ちょっと可哀想なので、背中をさすって嫌っていないことを表現した。

伝わっただろうか?


公爵をあやしているつもりなのだが、う~ん、周りからの視線が痛い。

多分、このやり取りを皆がジト目で見ているのだろう。視線が痛いです。


(そのジト目は、羨望の眼差しであったが、シンには理解の範疇を越えていた。)


「もし、本当に僕のことを好きなら、実力で惚れさせてほしいと思っています」

俺は、女王の方へ向き直り、しっかりと宣言した。


「それは、言い換えると誰にでもチャンスがあると言うことだな」

珍しく小太り宰相が自ら発言した。

なんだかしたり顔で怖い。


「そう、、、なりますね。その…、言うかどうか悩みますけど、僕はまだ童貞ですし、本当に好きな人に初めてを捧げたいと思っています。それに・・・もごもごもご・・・。」


ここまで言ったところで、公爵に口を塞がれてしまった。

「シン! それ以上は言っては駄目だ」

公爵が慌てて俺を制止した。


周りを見ると・・・、


“ぶほっ”と第一王女が鼻血を吹き出している。


女王も鼻を押さえている。


謁見の間内は、桃色吐息がこだましている。



俺には、何がどうなったのかしばらく分からなかった。

感性の違いだろうか?


~~~~~~~~~~~~


公爵には、後日、勲章などの褒美が与えられた。

さて、”迷い人”争奪戦が始まるのだろうか・・・。

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