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第15話 もう一人の迷い人

突然現れた黒髪・黒目の男。

この世界で初めて見る自分以外の”迷い人”。


「俺は、服部正人だ。マサトと呼ばれている。よろしく!」


服部正人と名乗った男は、登場の仕方と違いひょうひょうとした人懐っこい人だった。


「あ、はい。僕は黒崎真です。シンと呼ばれてます」


服部さんは、やはり”迷い人”で10年ほど前に隣国セントラルに召喚されたそうだ。

その頃のセントラルは弱小国であったが、今や周辺諸国を脅かす程の大国になっている。

その隆盛はまさにこの10年で、服部さんがセントラルの王配となり、辣腕を振るったと言うのが定説だ。


「若いね~、黒崎君。見目も”もろ”こっちの女性の好みだし。

 これから大変だぞ~。ふっふっふ。

 さぁ、さぁ、この十年、日本で何があったか教えてくれ!

 その代わり、この世界で君の知りたいことは何でも教えるからさ!」


服部さんは、わくわくが止まらない感じで、警戒感も”0”で接してくる。

先ほどまでの威圧感も全くなく、旧知の友人にあったかの様だ。

異国で会った日本人同士、敵意が無ければこんな感じなのかもしれない。


何から答えればよいのか逡巡している間も圧が凄い。

・・・この10年の日本のことか。

なるほど、そりゃ気になるよね。

服部さんも攫われるように突然召喚されたのだろうし。


俺は、新型コロナ感染ウィルスで7万人以上の死者が出たこと、元首相が殺されたこと、アメリカ大リーグで日本人が二刀流で大活躍していることを話した。

服部さんは、どの話も興味津々で、驚いたり感心したり表情豊かに聞いている。

こうやって話すと普通の気の良いお兄さんだ。


年齢は28歳(もう正確には分からないそうだ)、兵庫県出身、召喚されたのは神戸市内。

東京評価10(俺が評価するのはおこがましいが)

芸能人だったと言われても信じてしまうくらいカッコ良い。

それに、この黒の戦闘服がさらにカッコ良く見せている。

服部さんのデザインだそうだ。

正直俺も欲しい。


”パチン”

と唐突に服部さんが指を鳴らした。

すると、馬車を引く馬が”ヒヒ~ン”と嘶いた。

それを切っ掛けに護衛騎士達もザワザワと動き出す。

(何かの魔法かな?)

そして、ドアをノックする音とともに、「失礼します」とヴァイオレットが乗り込んできた。


「シン殿!ご無事でしたか?」

「あ、あゝ、何の問題もないよ。ありがとう」


俺の言葉を聞いて安心したのか、ヴァイオレットの強張った表情が少し緩和された。

そして、ヴァイオレットは服部さんを一瞥すると、俺を庇う様に間に入った。


「さっきのひとか、職務に熱心なのは良いがちょっと外してくれないか?

男同士の秘密の話なんだよ」

と服部さんはおちゃらけて言う。


「か、彼女は良いんです。居てほしいんです。どうかお願いします」


俺は、とっさに反論してしまったが、浅はかだったかもしれない。

理性的な判断よりもヴァイオレットに居てほしいと言う感情が勝ってしまった。


「へぇ~、君の女かい?」


「ち、違いますよ」と言いながら俺はヴァイオレットの方を窺うと、ヴァイオレットは少し寂しそうな顔をしていた。

「ですが、大変好ましいと思っています」と続けると、打って変って紅潮し、頭から湯気が出ている。


「ふう~ん。まぁ良いや、分かったから貴女も座ったらどうだい」


照れながらも大人しく俺の隣に座るヴァイオレット。

”どうりでな”とにやける服部さん。


「それはそうと、黒崎くん、ひょっとして、まだ召喚士と会っていないのでは?」

「しょうかんし…、召喚士ですか! そんな人がこの世界には居るのですか? その人が俺を? どうして?」

「まぁ、まぁ、落ち着いて・・・。」


俺は、驚きすぎて顎が外れそうだった。

服部さんの説明では、迷い人はある日突然自然発生的に異世界から出現するのではなく、この世界の者が意志を持って召喚するのだと言う。

そして、召喚される者も無作為に選ばれるのではなく、召喚士がその思い描いた人物を召喚するのだそうだ。

だから、大抵は召喚士の好みのタイプの人(男性)となる。


(それはちょっと照れますね。)


ヴァイオレットが、“むすっ”としたような気がしたが、これくらいはスルーしてほしい。


さらに、驚いたことに“迷い人”は、召喚士と融合することでその能力を開花させるとのことだった。


「いや~、能力も無いのに良く今まで無事でいられたね~❤」

と冗談っぽく言われたが、手込めにされていても不思議ではないそうだ。

おばさん達のギラギラした目付きを思い出すとちょっと怖くなり、本当に運が良かっただけかと思うと“ぞっ”とした。

ヴァイオレットも、”手込めにされる”と言う言葉に反応していたが、やはりそう言う世界なのだなと思った。


ちなみに、服部さんが召喚された際は、目の前に召喚士が居たそうだ。

そして、服部さんの召喚士とは、現セントラルの女王様でその後二人は結ばれた。

“融合”が何を意味するのか興味津々だが、詳しくは教えてくれなかった。


注)ここでの召喚士とは職業とか役職を指す言葉では無く、召喚に成功した人のことを言う。


~~~~~~~~~~


「さあ、次は俺が答える番だね。なんなりとどうぞ」

「日本には何時か帰れるんですか? それか帰る方法を知りませんか?」


「俺の知る限り、帰った者はいない。…が、方法が無いわけではない」

「・・・・?」


少し難しい顔をする服部さんに、俺は答えを“早く早く”と急かした。


「その時がくれば分かるさ。」

「え~! なんでも答えてくれるのでしょ! 教えて下さいよ!」


「う~ん。でもな~、今、じゃないんだよな~、俺が言うのもどうかと思うし」

「か、帰れるかもしれない…のは間違いないのですよね?」

俺はもう、すがるような目で服部さんに問いかけた。

隣で大人しく座っているヴァイオレットは、身を固くし拳を握りしめていた。


「…そうだね。・・・はい、次! 早くしないと、そろそろ着くんじゃないか?」

「え、そうなの? …」


なぜか肝心なところをはぐらかされた気がする。

しかし、時間が無いのなら仕方がない。


「それじゃあ、俺が“迷い人”って言うのは間違いないのですかね?」

「今更だな。そこは間違いないよ。まずは君の召喚士に会うことだ。

 (本当に迷うのはその先だよ…黒崎くん)

それに、多分、君にも俺の居場所が分かるようになると思うよ。

なにせ、この世界で二人っきりの“迷い人”だ」


「じゃあ、“迷い人”が10年で消息不明になるっていうのはどういうこと?」

「あゝそれな。それは10年って決まってる訳じゃないんだよ。丁度節目って言うか、たまたまって言うか、9年の人も居るし、11年ってこともあるし…

別に死ぬと決まってる訳でもないし」


「し、死ぬの!? まさか、服部さんも?」

「だから、決まってないし! 俺は死ぬつもりも予定もないよ!」

「そう、ですよね。 はははっ」


ほっと一安心しているところで、馬車は目的地である公爵邸に着いた。

迷い人の能力についても聞きたかったのだが…。

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