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第14話 オルレイン子爵

今週は台風が上陸しましたね。被害にあわれた方々、心中お察しします。

かく言う私も多少の影響を受けて更新が滞りそうです。

楽しみにしていただいた方には申し訳ありません。

私は今、某ホテルにて我が長女ヴァイオレットから、報告と小言を聞かされている。

私、マーガレット・オルレイン子爵は、シン殿のホテル脱走を知っていた。

当然だろ?

もちろん、影ながら護衛もつけていた。

しかし、助けるのは重篤な危険があった場合のみと命令していた。

それはなぜか?

そう、それはシン殿を我家に迎えるためだ!


迷い人であるシン殿は最重要人物で、この国に変革をもたらすのはまず間違いない・・・・。その上、見事な黒髪・黒目の美男子だ。

誰もが手に入れたいと願うだろう。

それ故、迷い人は過去から絶対権力者である王族が娶ると相場が決まっている。

シン殿には可哀想だが、適度な傷物になれば、王族が婚姻を躊躇うのは目に見えている。

それに、この国の男子は多かれ少なかれそのような目に遭っている。

シン殿にも多少は我慢してもらおうではないか。


そもそも、シン殿は我が領の辺境の村に召喚された。

短い期間であったが、子爵家で世話をしていた間、皆幸せであった。

私も、グーベンデールも、使用人達でさえそうだ。

彼が家に居てくれるだけで、単調な日常でさえも楽しい張りのある人生と思えた。

シン殿にとっても悪く無かったはずだ。

見ず知らずの所より、多少は慣れ親しんだ我家で今回の傷を癒せば良い。

そうすれば、さらに情も湧いてくるだろう。


私は、これをチャンスだと捉えている。

それでなくても長女であるヴァイオレットを王族に召し上げられている。

ヴァイオレットは、武技に秀で当家を継ぐには充分な資質を持っていた。

しかしながら、王族でもあるアスター公爵の意向には逆らえなかった。

グーベンデールも悪くは無いが、次女に産まれたことにより覚悟が足りないのだ。

本人も、次期領主となることが急遽決まり、心理的負担となっていたようだ。

せめて、好きな男を娶らせてやりたいと思うのが親と言う者だ。

ヴァイオレットが出世すればさらに可能性は高くなる。

妹の為に、我が家の為に粉骨砕身働くであろう。


シン殿は、王族に嫁がなくとも政治・経済・軍備と多岐に渡って国に貢献できるはずだ。

我々も全力で協力する。

それこそ、我が一族が全身全霊を持って尽くすであろう。

今回は、図らずもヴァイオレットがシン殿を助けたのだ。

オルレイン家に下賜されてもおかしくはない。

首尾は上々だ!


そのヴァイオレットの小言を上の空で聞きながら物思いに耽る。


「母上、聞いておられますか!」


そんなに必死にならずとも良いものを・・・。

ん?

もしかして、ヴァイオレット・・・、お前もなのか?

幼い頃から武芸・学問に勤しみ、異性に興味など示さなかった娘・・・。

自分に良く似た娘を改めて見る。

恋をしているか?

お前も・・・女なのだな。


「聞いているさ。もちろん、反省もしている」


私は、すまなさそうに答えつつ、心の中で頭を抱えた。


△△


~翌朝~


一行は、馬車でアスター公爵邸へ向かっている。

オルレイン子爵は先頭の馬車へ、そして俺は後方の馬車だ。

俺のせいなんだろうけど、今日の警備は物々しく、ヴァイオレット率いる第四師団も同行している。

大袈裟すぎるでしょ。


そして、まさにこの物々しさが仇となる。


馬がピタリと進行を止め、馬車が急停止した。


“凄まじい何かが近づいてきている”


ピリピリとした肌感覚が脳に伝わる。


剣を抜き身構える護衛騎士達。


・・・・・・。


…数分は経っただろうか、戦闘はおろか物音もしない。

俺は、馬車の窓から辺りを見回した。

すると、護衛騎士達が凍り付いたように固まり、身動き一つせずある一点を集中して見ている。


何かいるのか?


先を追って見ると、真っ黒な装束の男が悠然と歩いてくる。

誰もが吸い寄せられる様に彼を見ている。

黒の戦闘服に光沢のある美しい黒髪。

誰もその歩みを止める者はいない。

見惚れているのか、それとも何かの魔法なのだろうか。


と、そこへヴァイオレットが立ち塞がる。

しかし、ヴァイオレットの様子はおかしく、かなり苦しそうだ。


「止まれ。これ以上は行かせぬ!」

「ほう、お前、動けるのか」


黒服の男がヴァイオレットの顎を掴む。

「うむ、なかなか良いな」

ヴァイオレットは、抵抗出来ずに歯を食いしばる。


「待て! 止めろ!」

思わず、俺は飛び出してしまった。


「よお! そこに居たか」

黒服の男はヴァイオレットから手を離し、こちらに振り向く。

ふらふらとよろめくが、息を吹き返すヴァイオレット。


黒服の男は、なぜか雰囲気を和らげ、ずんずんとこちらに向かってくる。


「まぁ、まずは中に入れてくれよ。 ゆっくり話をしよう!」


この世界では初めて見る黒髪・黒目の男の人だ。

そして、結構なイケメンなのに親し気に話しかけて来る。

日本人?の”迷い人”?


“どうぞ”と言ってともに馬車に入った。

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