第12話 さよならハテナ村
~ハテナ村~
村に帰って数日が経った。
町での疲れも癒え、平静を取り戻したところで稼いだ金の半分を村に寄附した。
はじめは、居候代と言ったのだが村長さんに固辞されたため、村の役にたてて欲しいと改めたところ、それならと受け取ってくれた。
帰ってきてからというもの、ミラが暇さえあればまとわりついてくる。
まだ気にしているのだろうか?
俺が町に半強制的に連れて行かれたのはミラのせいじゃないのに。
それ以外は特に変化の無い日常が続いている。
広場に行ってみても特に変化は無かった。
どうやら異世界の門では無いようだ。
召喚士も現れないし、そんな存在の話も聞かない。
俺のこの世界への転移は、何の目的も意図もなく偶然の産物だったのだろうか?
であれば、俺は本当の“迷い人”になってしまう…。
「シン、最近“ぼ~”としているよね? 大丈夫?」
ついにゼラに指摘されてしまった。
そう、俺は頻繁に“ぼ~”としている。
別に望郷の念を抱いているとか、ヴァイオレットの事を思っているとかでは無く、いやそれも多少はあるのかもしれないが、
“ぼ~”としている…せめて、アンニュイと言ってくれないかな?ゼラ。
そんな時に村長さんから呼び出しがあった。
村長さん曰く、領主様から手紙が来たと言うのだ。
どうやら、町役場から領主様まで報告が上がり、“家出息子”から“迷い人”に昇格したらしい。
手紙には詳しくは書かれていなかったそうだが、近々迎えが来るそうだ。
予知…では無かったが、漠然としたものが現実化してしまった。
“迷い人”となれば、こんまま平静には暮らしていけない。
ハテナ村との別れが近づいて来る。
△△
領主様からの迎えとして、使者の執事さんと護衛の騎士数名が来ていた。
別れの寂しさと同時にヴァイオレットに会えるのではとの期待が膨らむ。
しかし、あっけなくその期待は消え失せ、その姿を見つけることはできなかった。
執事さんの口上は省くとして、護衛として来ていた騎士団長はヴァイオレットでは無かったのだ。
騎士団長に恐る恐る聞いてみると、ヴァイオレットはその有能さを認められ王族に招聘されたそうだ。
一抹の寂しさはあるが、まぁ、目出度いことだから仕方が無い。
現団長は、従前の副団長であり、当然俺とヴァイオレットの経緯を知っていた。
落胆する俺に、遠からず会えるよと言ってくれた。
気さくな方だ。名前はクインスと言い、領主邸に行くまでの間、程よい話し相手となってくれた。
~別れの時~
何となくだが、二度とこの村には帰って来られない予感がする。
村長とリリーと順番に握手していく。
ミラは、今にも泣き出しそうな半べそになっていた。
“可愛い奴め”
「本当に俺のことを好きなら追いかけて来てね」
と発破をかけておく。
半分本気だが、残りはミラの向上心の一助になればと思った。
この村で一生を過ごすのも悪くは無いのだろうが、若者には少しぐらいの野心も必要だろ?
…なんか泣けてくる。言い訳ばかりしてる俺。
ミラ、本当は俺も、、、寂しい。
だからゼラには何も言えなかった。
多分、彼女はこの村を捨てられない。
将来は、村長になりガーベラとその先を育んでいくのが真っ当なのだと思う。
「シン!」
「・・・。」
ゼラは俺の名を叫んだものの、その先の言葉は出てこない。
ただ苦しそうに何かを噛み締めているだけだ。
“言えない言葉”・・・
俺は、ふわりとゼラに近づきその額に軽いキスを落とす。
「ありがとうゼラ」
それだけを言霊にし馬車へ向かう。
「シン!」
もう一度ゼラが俺を呼ぶ。
俺はほんの少し振り返り、ゼラに微笑む。
しかし、ゼラからその先の言葉は無い。
俺は踵を返して馬車に乗り込んだ。
泣き顔は見せたくない。
※ゼラニウムの花言葉・・・友情
アルケミラの花言葉・・・初恋




