第10話 パーティ2
~ギャールとプリメリアの会話2~
「わざわざ笑いに来たの?」
「・・・そんな訳ないだろ」
「あの男、良さそうな男ね。貴女には似合わないわ」
「分かっているさ。こんな町で収まっている様な男ではないな」
「嫌み? どうせ私はそこそこの男よ。領主の夫にもなれそうにないわよ」
「グーベンデールに何を言われたんだ?」
「別に? 貴女には関係ないでしょ!」
「関係なくは無いだろう」
「もう放っておいて!」
「自棄になるな。私は・・・」
“今だ、そこで優しく抱きしめてやれ”と俺が手に汗握っていると、隣のグーベンデールも身を乗り出していた。
そうか、良く聞こえると思ったら、グーベンデールが風魔法を使って二人の会話をこちらに流しているのだな。
言ってることとやってることが違うくね!?
「私は・・・」
ギャールは深いため息をつき、「家の馬車で送ろう」と優しく言った。
きっと、言うべき言葉を飲み込んだのだろう。
(ええ~!)
(馬鹿!大声を出すな!)
グーベンデールが咄嗟に風魔法で俺の声を逆に飛ばす。
と同時に抱きしめられ口を塞がれる。
“もごもごもごもご”(もう大丈夫だから離せって)
(すまない。他意はない)
(分かってるよ。こんな時にHなことする奴いないだろう)
ジト目でグーベンデールを見ると、妙に嬉しそうな顔をしていたので、”コツん”とおでこを小突いてやった。
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「優しいのね。知らなかったわ。それって彼の影響?」
「・・・そうかもな。」
「グーベンデールにとって、私は単なるトロフィーみたいなものよ。だから、1番では無くなったからもう要らないの」
「君は物じゃ無い。それにプリメリアはプリメリアにしか無いものを持っている」
「やっぱり貴女、変わったわね。妬けるわ。」
「・・・。」
「悔しいけど私の負けね。送っていただくわ」
「あゝ、そうだな。馬車まで送ろう」
そう言うと二人は連れだって出口の方へ歩いて行った。
・・・上手く行ったのだろうか?
と腕組をして考えあぐねていると、グーベンデールがにじり寄ってきて「二人は良い雰囲気だったね~」と暢気に言ってきた。
そうかな?と首を傾げていると、「僕たちもどうだい?」とまたまた脳天気なことを言う。
馬鹿じゃないのか?
「結構です」と突っぱねて距離を取る。
「まぁ、悪いのは僕だって分かっているけどね」
「・・・。」ジト目で返す。
「仕方ないじゃん。領主の跡目を継ぐには2番じゃ駄目なんだよ。
だから、魔法も何もかも頑張った。それでも超えられないものだってあるんだ。」
「・・・。」
「まぁ、君たちには関係の無い話だけどね・・・悪いとは思っているよ」
「分かっているなら、なお悪いよ」
「ふふ~ん。でも君となら上手くやれる気がする。
そうだな。・・・領主になれなくてもいいや、君となら」
「馬鹿なこと言ってないで、領主にでも何でもなりな。俺は、もう付き合ってられない」
呆れてしまったが、「じゃぁね」と言ってその場を後にした。
領主になるプレッシャーかぁ、俺に理解出来るはずも無い。
だから、彼女を責めきれない。
それに、俺は日本に帰るのだ。
帰りたい・・・のか?
本当に?・・・。
△△
会場に戻ると、ダンスの時間が迫っていた。
やむを得ず、壁の花に徹しようかと思っていたが、ギャールが戻ってきた。
何食わぬ顔で俺の手を取り、ホール中央へ誘う。
何となくギャールから哀愁が漂っている。
ダンス中だが、耳元でギャールに囁いた。
「大丈夫か? 無理しなくても良いよ」
「私は別に、、、無理など。・・・そうだな。無理しているのだな。
私は、彼の泣き顔を見たかった訳では無いんだ。
ただ、私にも人並みの感情があるのだと…、あいつらに思い知らせてやりたかっただけなんだ」
「そりゃ、そうだよ。そんなの当たり前だよ。・・・だけど、もう良いだろ?
気は晴れなったかもしれないけれど…、上手く言えないけど、前を向いて行こう」
「あゝ、もちろんだ。そのためのダンスだからな」
そう言ったギャールはどこか吹っ切れた顔に変わっていた。
そして、俺はいつの間にかギャールに身を任せ、ステップを踏んでいるのだった。
※グーベンデールは、その後会場には現れず、誰ともダンスは踊らなかった。




