最後に残した宝物
「再度尋ねる。心奏に関わりたくないのは、あの子が真心さんに似ているからか?」
志賀が真剣な瞳で奏治を見つめ尋ねた。
奏治はあまり答えたくないというように、顔を歪ませ睨みつけていた修治から逸らした。
口をキュッと結ぶように閉じていたが、志賀と修治の逸らされることのない視線に諦めたように、ため息をついて口を開いた。
「あいつは……あの子は何もかもが母親の真心そっくりだ。顔立ちも、少し人見知りな性格も、それなのに誰とでも分け隔てなく接する優しさも、頭が回るところも、変なところで頑固なところも、芸術に対して興味があるところも、そして――」
奏治が苦虫を噛み潰したように表情を歪ませる。
「身体が弱いところも……」
志賀と修治が息を飲む。
二人の記憶にも奏治が話したことに、思い当たる節があったのだ。
そんな二人の様子を気にかけることなく、奏治は話を続ける。
「少しでも俺に似れば良かったのに、いるはずもない神は嘲笑うかのように、あの子の全てを母親に似せた。本当に、ほぼ全てを……」
奏治がギュッと握る手に力を込める。
心奏と真心の姿を重ねているのだろう。
奏治は心ここにあらずといった様子で、一点をジッと見つめている。
「あの子が生まれた時に、俺は自身に対しての怒りを真心と、あの子にぶつけてしまった。なぜ俺に似せてやれなかったんだ。少なくとも、なぜ普通に生んでやれなかったんだ、と……」
志賀が唾を飲んだ。
修治も表情変えず奏治を見つめているが、何か思うところがあるかのように口を固く閉じている。
「真心がいる時はまだ良かったさ。愛する妻と、妻によく似たあの子。二人の笑顔こそ、俺の護るものだと思った。だが、真心がいなくなってからは別だ。よく似たあの子を見れば見るほど、真心を失った事実が俺を苦しめた」
奏治は目を瞑り俯いた。
まるで世間から目を背けるように。
「だから、俺はあの子から離れた。距離的な意味でも、心体的な意味でも……。それが、二人にとって一番だと思った。それは今でも変わらない」
奏治がそう語り終えると、志賀がまだ本調子でない喉から少し掠れた声を絞り出した。
「心奏はお主との仲直りを望んでおる。お主に自分を認めて貰いたいとな」
志賀の言葉に奏治は俯いたまま、口を噤む。
「心奏は唯一の、真心さんとお前との奇跡だろうが。身体の弱い真心さんと、子供が出来にくい身体のお前との。何を悩む必要があるんだ」
修治は少し強い口調でそう奏治に言うが、奏治は俯いたまま身動き一つしない。
そんな奏治に呆れたかのように、志賀は大きなため息をつき、椅子にもたれかかった。
「心奏は真心さんと奏治殿の奇跡であり、真心さんと奏治殿の分身であり。真心さんが最後に残した、奏治殿との愛を表す宝物ではないのか?」
奏治がハッと息を飲んで、志賀の方を見た。
志賀は同情とも差別とも違うような、真剣な眼差しで奏治を見つめている。
「心奏にとってお前は何だ?たった一人の父親だろう。父親であるお前が、子供の心奏に気を使わせてどうするんだ」
修治の言葉に奏治は目を見開き、そしてまた俯いた。
シーンとした静けさだけが三人を包み込む。
「これで最後じゃ。心奏の、お主達の唯一の子供の、演劇を観に来てはくれぬか?」




