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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 百良
第四幕『神の指導者』
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僕は焦ってるの…?

 演劇まであと一週間を切った。

 心奏(しおん)達三人は今日も修治(しゅうじ)の所有するビルの一室で演劇の内容を練っていた。

 それぞれの楽な体勢で床に座り込んでいた三人は、演劇の内容について討論を繰り広げていた。

「う〜ん。ここはどうしても譲れないよ。僕にとっては無くてはならない内容なんだ」

 心奏が自身の目の前にある紙の丸がついた部分を指でなぞりながら言った。

 その様子に羽音(ねお)響彩(とあ)は二人で顔を合わせてため息をついた。

「そうは言っても、どこかを削らねぇと全てが中途半端になっちまう」

「ストーリーとしてはここを省略するのが一番なんだけど……。じゃあ、別の内容に変えるのはどう?」

 羽音と響彩が交互に心奏を説得しようと試みるが、依然として心奏は首を縦に振らない。

 心奏を昔から知る二人にとって、ここまで心奏が何かに固執するのは初めてだった。

 確かに、心奏は自身が間違っていない限り、こうと決めたことを簡単に変えるような人物では無かったが、しかしこれはあまりにも異常だった。

「じゃあ、どうするってんだよ。全部詰め込んだ演劇はムリだぞ。内容的にもお客さんの集中力的にも……」

 羽音は心奏を説得するのを諦めたように息を吐き、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。

 まさに集中力が切れたといった様子だ。

 そんな羽音に呆れながらも、響彩が心奏に向かって尋ねる。

「心奏、アナタ何をそんなに焦っているの?」

 心奏の目が大きく開かれた。

 自身が焦っていることに全くと言っていいほど気付いていなかったのだろう。

 そんな心奏とは裏腹に、羽音と響彩は回答を待つべく心奏をじっと見つめている。

「僕は……」

 心奏がゴクッと唾を飲み込んだ。

 頭をフル回転させているのか、心奏は一点を見つめたまま身動き一つしない。

「僕は焦ってるの…?」

 心奏が出した回答はそれだった。

 しかし、それは回答と呼べるようなものではなかった。

 心奏の言葉に羽音と響彩が頷く。

「焦ってるっていうか、いつもの心奏じゃねぇっていうか。親父さんに認めて貰いたい気持ちは分かるが……」

「いつも通りじゃない心奏で、お父様は認めてくれるかしら?」

 羽音と響彩の言葉に心奏は息を飲んだ。

 自身がいつもの通り、演劇を楽しんで創れていないことに気が付いたのだ。

「ごめん……」

 心奏はそれしか言えなかった。

 しかし、二人が聞きたいのはそんな言葉ではなかったのだろう。

 二人は心奏の肩にポンッと手をかけた。

「違うだろ?」

「違うでしょ?」

 二人が同時にそう言うと、心奏はクシャッと顔を歪ませた。

「もう一度、考えてみていい?」

 心奏の言葉に、羽音と響彩は微笑んで頷いた。

 紙に向き直り、真剣に内容を見つめ直す心奏のことを、羽音と響彩は子を見つめる親のような瞳で見つめていた。

「羽音も気付いてたのね。こういうこと鈍感だと思ってたのに」

 改めて床に寝転び、頬杖をついていた羽音だけに聞こえるように響彩が呟いた。

 それに対して羽音は掠れた笑いを溢し、再度心奏に目を向けた。

「オレ達は、心奏にそういうことを教わったんだ。それを、いつの間にか忘れてしまってる心奏に、今度はオレ達が教えるのが助け合いだろ?」

 羽音がそう答えると、響彩がふふっと笑った。

「そうね。私達は助け合わなくちゃ…」

 それからも羽音と響彩は、真剣に内容を見つめ直している心奏を微笑み混じりに見つめていたのだった。

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