表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 百良
第四幕『神の指導者』
92/150

ハッピーエンドでも、バッドエンドでも

「あ、これ……」

 心奏(しおん)が手を止め見つめた紙は、先程まで響彩(とあ)が繋がる内容を探していた二つのシナリオの内の冒頭だった。

「それがどうかしたの?」

 響彩が首を傾げながら尋ねると、心奏はとある一文に指を当てた。

 羽音(ねお)と響彩がその一文を確認するように紙を覗き込む。

 そこには『メリークリスマス』と大きく書かれていた。

「これ、クリスマスの話みたい」

 心奏の言葉に羽音が心奏の手からシナリオの紙の束を抜き取ると、じっくりと内容に目を通し始めた。

 その様子に心奏と響彩も内容を確認しようと、羽音の手元を覗くように背伸びをした。

 二人の行動に気付いた羽音が紙を持つ手を三人で見られる位置まで下げる。

「親子のお話なのね」

 響彩がそう呟くと、羽音が紙を捲り末尾を前に出した。

「これ、ハッピーエンド…でいいんだよな?」

「怪しいところよね」

 羽音と響彩がシナリオの終わりを見つめていると、心奏が少し悲しそうな笑顔になった。

「ハッピーエンドでも、バッドエンドでもないよ。これは、謂わば()()みたいなものかな…」

 心奏がそう言うと、羽音と響彩は思うところがあるのか何とも言えないような表情になった。

 羽音が紙を持っていた手に力を入れたことで、クシャッという音が部屋に響く。

 慌てて手の力を抜いた羽音だったが、紙にはすでにしわが出来てしまっており、それを見た心奏と響彩がハハッと笑った。

「ねぇ。僕、これを演劇にしたい。父さんに認めて貰うには『これ』しかないと思うんだ」

 心奏の子供のような無邪気な笑顔に、羽音と響彩は先程とは打って変わって呆れたように微笑んだ。

「いいぞ」

「いいよ」

 二人が同時にそう言うと、心奏は満面の笑みでニコッと微笑んだ。

「ありがとう。二人とも」

 そう言って、心奏は高く昇る陽を眩しそうに微笑みながら見つめたのだった。



 同時刻頃、志賀(しが)夏目(なつめ)の運転で心奏の家へと向かっており、後部座席でスマホを耳に当て修治と電話をしていた。

「今から向かうぞ。検討を祈っておってくれ」

 志賀は目を閉じた後、まるで何かを祈るようにゆっくりと目を開けた。

『俺も夕方までには向かうが、もし無理そうなら退却しておけ』

「あぁ、分かっておる。ではな…」

 志賀がそう言って電話を切ると、待っていたかのように夏目が志賀に話しかけた。

神々(みわ)くんのお父様って、あの素っ気ない人ですよねぇ」

 夏目の質問に志賀が黙って頷いて答える。

「大丈夫なんですか〜?」

 夏目の不安そうな声に志賀は目を細めた。

 そして後悔しているような、志賀には珍しいような弱々しい声で言った。

「血が繋がっておればまだしも、わしは彼奴(あいつ)と一ミリも繋がっておらんからのう。昔のように、追い出されるかもしれんのう」

 志賀はカッカッカッと笑ったが、それは乾いたような笑いで心のそこから笑っているようには思えないものだった。

 そして、志賀は車の窓枠に肘をかけると頬杖をつき、夏目に微笑みかけた。

「心配はない」

 志賀の微笑みに夏目は笑うことが出来なかった。

 それどころか、夏目の口の中はビスケットを食べた後のようにカサカサに乾き、励ましの声もかけることが出来ない。

「大丈夫じゃ。今度こそは絶対に話をつける…」

 志賀の瞳には高く昇った陽と共に、決意の現れが強く映っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ