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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
9/150

残り一週間

 羽音(ねお)響彩(とあ)が笑いあっている様子を見ながら、心奏(しおん)志賀(しが)に向かって言った。

「話、聞いてくれてありがとうございました。おかげでスッキリしました」

「わしは何もしておらぬよ。心奏君らだけで解決したではないか」

 志賀が心奏の頭を優しく撫でる。

「わしらにもそういう事があったからのぉ。じゃが、いつだって解決出来るのは本人たちじゃ。周りはサポートをするだけ。そういうものじゃ」

 志賀が心奏を、離れている羽音と響彩を、我が子のように見つめる。

「お主らは打ち勝った。それだけじゃ」

 志賀が心奏に笑顔を向けた。

「今回の演劇、絶対に成功させます。先輩も見に来てください」

 心奏もとびきりの笑顔を志賀に向ける。

「……あい、分かった」

 志賀は一瞬目を丸くしたが、カッカッカッと笑うとコクンと頷いた。

「さぁ、もう日が沈むぞ。(はよ)う家へ帰って、演劇の準備をしなされ」

 志賀が沈む夕日を眩しそうに見つめた。

 その言葉に心奏達は、志賀にお辞儀をすると、屋上から去っていった。


「盗み聞きとは感心せんのう。わしが心配じゃったか?」

 志賀が虚空(こくう)に向かって話しかける。

「……わしが助言する必要もないほど、あやつらは成長しておる」

 志賀は話し続けるが、返答はない。

「わしがいなくとも()()は大丈夫かもしれぬな。のう、夏目(なつめ)



 演劇本番まで、残り一週間を切った。

 心奏達は劇場の中に入り最終の確認へと移っていた。

「ここはもう少し丁寧に。響彩、そこは勢いよく。羽音、話聞いてた?そこは丁寧だって」

 心奏達が劇場の中で動きまわっている。

 そして、それに併せるように様々なロボットたちがちょこまかと動いていた。

「ねぇ、この最後の演出やっぱ変えてくれない?」

 心奏は台本を片手に羽音へと歩み寄る。

「ここはお客さんの目が響彩に集まる。その次に君やロボットだ。それぞれにお客さんの目が移り変わるようにしてほしいんだ。出来るかな?」

 心奏は真剣な眼差しで舞台の地図と台本を交互に指差す。

「行動が単純すぎるからなぁ。演出は派手にしたかったんだが…」

 羽音が難しい顔をしながら、台本の文字を指で追いかける。

「ここは派手さよりも物語の終結を見せたいんだよ」

「分かった。じゃあ後で設定しておく」

「ちょっと何してんのよ。こっちは覚える事しかなくて困ってるんだけど?」

 不意に、響彩が二人に声をかけた。

「ごめんごめん。演出をちょっといじってたんだ」

 心奏が台本と舞台の地図を閉じながら、舞台袖に入っていく。

 響彩は「ふーん」と興味のなさそうな返事をし、動きの確認に戻った。

「あと一週間もないのよ?演出もそろそろ固定しないと」

「そうだね。最高の演劇にしないと」


「そういえば聞き忘れてたんだけど……この演劇が終わったら、また入院するの?」

 心奏は舞台袖から出てきながら、残念そうに俯く。

「多分、そうなるだろうね」

「そっか」

 心奏が頷く。

「もう退院出来ねぇってわけじゃねぇんだし。そんな落ち込むもんでもねぇだろ?」

 羽音が二人と目を合わせる。

 その言葉に心奏と響彩は静かに頷いた。

「今は最っ高の演劇をする。そんで、お客さん達に喜んで貰う。ただそれだけだからな!」

 羽音が声高らかに宣言すると、心奏と響彩はプッと吹き出した。羽音も一緒になって吹き出す。

「あははっ」

「ふふっ」

「ハハハッ」

 3人の笑い声が劇場内に響く。

 その光景は、誰もが笑顔になるような、そんな微笑ましい様子だった。

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