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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第四幕『神の指導者』
89/150

引きこもり

「だが、出てくる所か返事もない」

 修治(しゅうじ)がそう言いながら首を横に振った。

 すると修治の隣で俯いていた志賀(しが)が、スマホを目の前の机の上に置き頭を抱えた。

「わしの所為じゃ。わしがあの時……」

 志賀の丸くなった背中に修治が手を当てる。

「お前だけのせいではない。あいつの事を何も変えれなかった俺の責任でもある」

 修治の言葉に部屋に張り詰めた空気が流れたが、覚悟を決めたような表情をした羽音(ねお)がその空気を切った。

「オレ、心奏(しおん)と話したい。心奏に直接会ってあいつを元気付けてぇ」

 羽音の言葉に響彩(とあ)も同意するように大きく頷く。

 修治は表情を変えることなく二人を見つめていたが、はぁとため息をつきソファから立ち上がった。

「案内する」

 修治がそう言うと、羽音と響彩は嬉しそうな表情で互いの顔を見ると同時にソファから立ち上がった。

 その間も志賀は頭を抱えていたが、二人が立ち上がると顔を上げた。

「心奏の事、よろしく頼む」

 志賀の顔は()()()()が混ざったような表情だった。

 ここ数分で疲弊したような志賀の顔に、羽音と響彩は互いに顔を合わせ強く頷いた。

「任せとけ」

 羽音の強い言葉に志賀は哀しそうに、それでいて悦ばしそうに微笑んだ。



――コンコン――

 とある部屋の扉を修治がノックする。

 しかし、返答どころか物音一つ聞こえることはなかった。

「しおーん!!」

――ドンドンドンドンッ――

 羽音が心奏の名前を呼びながら扉を強く叩く。

 しかし、またしても返答はない。

「ねぇ、これ鍵ついてるの?」

「いや、ついてはいないが……」

 響彩の問いに修治が困ったように答えると、修治が言い終わらない内に、響彩が扉のノブに手をかけて扉を開けた。

 扉を開けた先は、まるでおもちゃ箱のように色々な物が転がっていた。

「これって……」

 響彩がドアノブを持ったまま身動きせずにいると、後ろから覗き込んだ羽音と修治も部屋の中の惨状を見て固まった。

「…あれ?皆揃ってどうしたの?」

 三人が目を丸くして立ち尽くしていると、布団の中から心奏がムクッと起き上がった。

 心奏が目を擦りあくびをするが、フワフワとした態度の心奏とは裏腹に未だ三人は扉付近で立ち尽くしていた。

「心奏、大丈夫なのか?」

 修治が伸びをしている心奏に恐る恐る尋ねるが、心奏は意味が分かっていないようでけろっとした態度で答えた。

「大丈夫だよ。特に体調悪いとかはないし」

「親父さんのことも、か?」

 羽音の問いに心奏は思わず目を丸くしたが、三人を安心させるように微笑んだあと口を開いた。

「確かに、最初は『なんで』とか『どうして僕だけ』とか思ったりしたんだよ?『僕のこと嫌いなのかな』とか『僕は要らない子なのかな』とか……」

 心奏の声は段々小さくなったが、微笑みを崩すことなく心奏は続けた。

「でね。数日は何もしてなかったんだけど、四日もしたら暇になっちゃって。どうしたら父さん理解して説得出来るかなって、色々紙に纏めてたら部屋もこんなことになっちゃった」

 ハハハと笑う心奏の顔は、何かが吹っ切れたような清々しいほどの笑顔だった。

 その笑顔を見て、ずっと見守っていた修治が心奏を抱きしめた。

「もう、勘違いするような事はやめてくれ」

 修治の言葉に心奏は驚いたが、心奏も修治の背中に手を回すと「ごめんなさい」と謝った。

 すると、何の余韻もないまま修治は心奏を担いだ。

「さぁ、これまでの事をみっちり聞かせて貰うぞ」

 修治の少し明るくなった声とは反対に、心奏はこれからの出来事を考え身体を震わせたのだった。

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