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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 百良
第三幕『Abendrot und Silber』
84/150

驚きの連続

「体調はどうですか〜?神々(みわ)くん」

「大丈夫ですよ。今日はいつもより調子がいいですし」

 夏目(なつめ)の言葉に心奏(しおん)はベッドに腰掛けながら答えた。

 心奏の目線に合うように夏目はその場にしゃがむと、心奏を触診しだした。

 そして聴診器を取り出し心奏の胸に当て、服越しに鼓動を聞いた。

「確かに、平均的な心拍数になってきてますねぇ」

 聴診器を外すと夏目はヘラヘラとした笑みを心奏に向けた。

「これなら、そろそろ退院しても問題なさそうですねぇ。修治(しゅうじ)さんに伝えておきましょう」

 夏目の言葉に心奏は嬉しそうに満面の笑みで頷き、羽音(ねお)響彩(とあ)は言葉を交わすことなく拳を突き合わせた。

 その後も少しの間、夏目は心奏の身体に不調がないが調べていたが、どこにも特に不調がないことが分かると立ち上がった。

「問題なさそうですね。じゃあ、ぼくはこれで……」

 そう夏目は言うと、振り返り病室を後にしようとしたが、思い出したようにハッとすると顔を心奏の耳元に寄せた。


『”神華(しんか)(よう)”には気をつけて…』


 夏目は心奏にのみ聞こえる声でそう囁くと、何事もなかったかのように微笑んで病室を出ていった。

 羽音と響彩が夏目と入れ替わるように心奏の側に近寄ると、羽音は目を見開いたまま微動だにしない心奏を見た。

「あいつ、何て言ってたんだ?」

 羽音がそう尋ねると、心奏はハッとして羽音と響彩を交互に見つめた。

 そして俯いて少し考えると首を横に振った。

「いや、何でもない」

 心奏の取り繕ったような笑顔に、二人は何でもない訳がないことを理解し心配しながらも、それ以上踏み込んで尋ねることはしなかった。



「それで、羽音ったらまた先生に怒られてたのよ」

 響彩が笑いながら学校であったことを話していると、コンコンと病室の扉をノックする音が病室に響き渡った。

「は…」

 心奏が返事をし終える前にガラッと勢いよく扉が開き、そこに志賀(しが)が立っていた。

「おやおや。皆さんお揃いで」

 志賀は驚いたように目を丸くしたがすぐに微笑むと、病室の中にズカズカと入ってきた。

 そして、扉の側にあった椅子をベッド脇に置くと、そこに腰を下ろした。

「心奏は本を読むのが好きじゃったろう?わしの新作のさんぷるを貰ったからのう。持ってきたんじゃ」

 志賀が表紙もない真っ白な文庫本を心奏の膝に乗せ、息継ぎをすることなく立て続けに言った。

 羽音は意味が分からず首を大きく傾げる隣で、響彩がゴホンと咳払いをした。

「志賀先輩?いくら先輩の本業が()()だからって、急に来て急に本を渡されても、心奏が困るだけですよ」

 響彩の言葉に羽音がガタンッという音を立てて椅子から立ち上がった。

(かなめ)センパイって作家なんすか⁉初めて知った」

 羽音の言葉に、同じく目を丸くしていた心奏が頷いた。

「私もセンセイから聞くまで知らなかったわよ…」

 響彩がため息をつくと、志賀がカッカッカッと笑った。

「確かに三人にはわしの本職を言った事は無かったか。わしの本職は作家。本名でやってはいないがな」

 志賀が豪快に笑う中、コンコンとまた扉をノックする音が響いた。

「はい!」

 心奏が志賀の笑い声に負けないよう、声を張り上げて返事をすると扉を開けて夏目が入ってきた。

「笑い声、抑えてくださいねぇ志賀くん。あと神々くん、退院決まりましたよ〜。一週間後だそうですので、くれぐれも、無理しないこと!ですよ〜」

 夏目の一言で、少し冷めてきていた部屋が三人の嬉しそうな声で温かくなっていくのだった。

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