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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第三幕『Abendrot und Silber』
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車椅子の少女

「ねぇ、心奏(しおん)はどこ?」

 病室で立ち尽くしている響彩(とあ)が、ベッド脇の椅子に座り先程自動販売機で買ったペットボトルのジュースを飲んでいる羽音(ねお)に問いかけた。

「さぁな。とりあえず、病院内にはいるだろ」

 羽音がペットボトルの蓋を閉めると、椅子から立ち上がった。

 そして病室を見回し、ベッド脇に置かれているワインレッドの小さな木箱に視線が吸い込まれた。

「触っちゃ駄目だからね」

 羽音の視線の先の物に気付いた響彩が呆れたように眉をひそめた。

「分かってる。それにしても、心奏遅くねぇか?」

 羽音が図星を突かれたかのように話題を変えると、響彩はため息をつきながらも鞄の位置を直した。

「それも、そうね。探しに行きましょうか」

「おう」

 羽音と響彩はそう言って病室を後にした。



「ねぇねぇ、お兄ちゃん!もっとお話して〜!」

 病院の二階にある子供達が遊ぶような広場に少年の楽しそうな声が響く。

 少年少女の中心に笑顔で座る心奏の姿があった。

「ちょっと、ちょっと待って。順番ね」

 心奏が周りにいる子供達を宥めていると、視線の端に車椅子の少女がいることに気付いた。

 その少女はとてもつまらなそうに俯いている。

 心奏はその少女のことが気になり、周りにいる子供達の間を縫い少女の側まで歩いて行こうとした。

 次の瞬間、車椅子の少女の目の前で五歳くらいの少年が躓き転んでしまった。

 その場で泣いてしまっている少年の元に心奏は駆け寄り、その少年を抱きしめあやした。

 すぐに少年の母親らしき人物が駆け寄って来て、心奏にお礼を言って少年と共にその場を後にした。

「ねぇ、君は遊ばないの?」

 心奏は車椅子の少女に向き直り、その少女に話しかけた。

 少女は心奏の方を真っ直ぐに見つめていたが、心奏の足元に目を移した。

「お兄さんはいいね。どこにでもいける“()()”があって…」

「え……?」

 思いもよらぬ言葉に心奏は目を見開いた。

 少女は未だ表情を変えることなく心奏の足元を見つめている。

「さっきみたいに人を助けることも、みんなと遊ぶことも出来るんだから。わたしには、そんなものないから……!」

 少女がそう言って膝に掛けていたブランケットを取った。

 そこにあったのは、膝から先がない少女の()だった。

 心奏は悲しそうに自分の脚を見つめる少女を見て、胸が締め付けられるように苦しくなった。

 かつての、碧偉(あおい)が居なくなり絶望したときの過去の自分に、車椅子の少女の姿が重なったのだ。

「脚はそんなに大事なものかな…」

 心奏が捻り出した言葉は否定でも肯定でもなかった。

 ただ単に純粋な疑問。

「僕は脚がなくても人を助けられると思う。脚がなくても皆と遊ぶことが出来ると思う。君は、そう思わない?」

 心奏の思ってもなかった言葉に少女は驚きつつも、言葉に詰まってしまい俯いた。

「確かに脚はあった方が役に立つとは思う。でも、脚がないからといって他の人と同じことをやってはいけない理由にはならないよ」

 少女がびっくりしたようにバッと顔を上げ、心奏を見つめる。

 心奏は少女に微笑みかけながら、少女に見えるように人差し指をたてた。

「一つお話をしよう。足が不自由な女の子のお話を…」

 心奏がそう言うと、先程まで遊んでいた周りの子供達が一斉に心奏の近くに集まってきた。

 その様子を見た心奏はニコッと笑い口を開いた。

「これは昔、昔のお話……」

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