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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第三幕『Abendrot und Silber』
80/150

巻き貝とドングリ

「あった!!」

 そう心奏(しおん)が叫び立ち上がると、五人のいる方に戻ってきた。

 心奏が手を見せると、その中には一粒の巻き貝を大事そうに包んでいた。

「これ、持って帰ってもいい?海に行った記念にしたくて…」

 心奏が修治(しゅうじ)の方に視線を向けると、修治はため息をついて心奏の頭を撫でた。

「持って帰ってもいいが、熱湯消毒しないといけない。そのポケットの中にある物もな」

 修治が全てを見通したかのような瞳で心奏を見つめ、心奏のジャンパーのポケットを指差しながら言うと、心奏はゴソゴソとポケットの中の物を取り出した。

 心奏の手の上には一つのドングリが乗せられていた。

「もしかして、さっき拾ってたの?」

 響彩(とあ)が驚いたように問いかけると、心奏は俯いたままコクンと頷いた。

「山で車に帰るとき、一瞬躓いているように見えたんだ。本当に拾っているとは思わなかったがな」

 修治がそう言って、心奏の手からドングリを取ると太陽に透かすように持ち上げた。

「家で消毒したら病院に持っていってやろう。どんな菌を持っているか分からないからな」

 その言葉に心奏はコクコクと嬉しそうに激しく頷いた。

「じゃあ、そろそろレストランに向かおうぜ。今日は美味しいものを沢山食べよう」

 羽音(ねお)がニコニコと椅子から立ち上がると、皆の先導をするかのように歩き出した。

 それに志賀(しが)夏目(なつめ)、響彩が続く。

「俺達も行こう」

 心奏の手の上にドングリを戻すと、心奏の頭をくしゃくしゃと撫で志賀達も歩いて行った方へ身体を向けた。

「うん!」

 心奏は満面の笑みでそう答えると、修治の隣で志賀達を追いかけるように歩き出すのだった。



 レストランからの帰りの車の中で修治はルームミラーで車内を確認したあと、また前へと向き直った。

「何か心配事でもあったか?」

 後部座席で肘をつきながら景色を眺めていた志賀が修治に問いかけた。

 レストランからの帰りは、心奏の体調が崩れたときにすぐ対応出来るように、と心奏達三人は夏目の車に乗っていた。

 その代わりに志賀が修治の車に乗っていたのだった。

「別に……」

「わしは心配だ。そろそろ『彼奴(あいつ)』が帰ってくる頃だろう?今のまま、幸福なまま居られるとは限らん。特に、彼奴が帰ってくる頃は……」

 修治の言葉を遮って、志賀がため息をついた。

 志賀の目には賑やかな街並みが写り込んでいる。

「彼奴はわしや修治殿のように、心奏の事を善く思ってはいない。あの時、空気も読まずあんな事を言ったくらいだ」

 志賀は何か遠い出来事を思い出すかのように目を細めると、次の瞬間には苦虫を噛み潰したときのように歪ませていた。

 それは修治も同じだったが、修治は自分が今言うべきことが何か分かっていたのだろう。

 表情一つ変えることなく言った。

「確かにそうだ。だが、それを乗り越えなければならないのは他でも無い、()()()

 修治がそう言うと志賀は一瞬目を丸くし修治を見たが、ハハと乾いた笑いを漏らした。

「そう…その通りだな。わし等がアレコレ言って解決出来る事でも無かった」

 志賀が頭を整理するかのように首を振ると、フッと困ったように微笑んだ。

「これから何があっても、わしは心奏の味方だ……」

「当然だ」

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