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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
8/150

最強のちぃむ

 心奏(しおん)がやってきたのは高校の屋上だった。

 夏休みのため校内にも校庭にもほとんど生徒は居らず、部活中であろう生徒が校舎の周りを走っているだけだった。

「僕のせいだ。僕が弱いから……」

 心奏は柵に身体を預け、髪を風に泳がせていた。

「弱くなんて無いぞ」


志賀(しが)先輩…!」

 心奏が振り返った先には、黒く長い髪をなびかせたマリンブルーの瞳の青年が立っていた。

 志賀と呼ばれたその人は、心奏のことを見るとニコッと微笑み心奏の元へと歩み寄った。

「むしろ心奏君はとても強い子じゃと記憶しておるんじゃが、そんなお主がここにいる事に、わしはとても驚いておるよ。何かあったのかえ?」

 志賀は心奏の隣に立つと、柵に背中を預け目を閉じ風を感じている。

「僕が……駄々をこねてしまったんです。二人は僕の事を心配してくれたのに…」

「じゃが、心奏君も曲げられぬ事があった(ゆえ)草柳(くさなぎ)君たちに駄々をこねたのじゃろう?」

 志賀が目をゆっくりと開くと、横目に心奏の顔を見た。


「はい……病院に戻れば、今回の演劇は必然的に中止。次の演劇にかけるとしても、次いつ退院出来るかわからない。僕は…諦めたくないから……」

 心奏の大きな目に涙が浮かぶ。

「何かあったら即入院。そう言われたけど、どうしても今回の演劇は諦めたくなかったんです。だって、だって……」

 心奏の目から大粒の涙が溢れ出てくる。

 その涙を志賀は細く長い指で拭うと、心配するように目を細め心奏に語りかけた。

「そうじゃな。心奏君が演劇を中止させたくないのは、よく分かった。じゃがな、お主が身体を(いたわ)らなければならんのも、これまた事実なのじゃ。賢いお主ならよく理解出来ておるじゃろう?」

 志賀の言葉に心奏はコクコクと静かに頷いた。


「大丈夫じゃよ。ゆっくり、ゆっくり自分のペースで生きていけば……のう」


 心奏はハッとしたように志賀の顔を見た。

 志賀の発した言葉が聞いた事のある言葉にとても似ていたからだ。

「「心奏!」」

 次の瞬間、屋上の扉を開けて羽音(ねお)響彩(とあ)が飛び込んできた。

 心奏と志賀はビクッと身体を震わせ、二人の方へと視線を移した。

「二人とも…なんで……?」

 心奏の問いに二人は顔を見合わせる。

「演劇、続けようぜ」

 羽音の思わぬ言葉に心奏は目を丸くしている。

「病院にバレなきゃ大丈夫だもの。今回の演劇はやり切りましょう?」

 響彩が心奏の涙をハンカチで拭った。

「いいの?本当に続けても……」

 そう言った心奏の手はとても震えていた。怖いのだ。失う事が、これまで積み上げてきたものが一瞬で壊れてしまう事が。

 その瞬間、羽音が心奏と響彩を抱きしめていた。

「っんな顔すんなよ……いいに決まってんだろ?ここまで積み上げたんだから、砕け散るところまでいかねぇと」

 羽音は微笑みながら心奏の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「砕け散っちゃダメでしょ」

 響彩がすかさず羽音の言葉にツッコんだ。


()()と言ったところかのう。お主らは本当に良い”ちぃむ”じゃな」

 カッカッカッと志賀が口元に手を当てながら笑う。

「だろ?オレらは最強の”チーム”なんだよ」

「小学生じゃないんだから、最強とか言わないでくれる?恥ずかしい」

 あ゛?と羽音が響彩を睨みつける。

 その様子を見て心奏が笑い出し、それを見て羽音と響彩も微笑んだ。

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