潮の香り
「次はここのレストランだぞ!時間ねぇんだからな」
走っている車の中で、羽音が後部座席から修治に茶々を入れる。
「五月蝿いぞ。分かったから黙って座ってろ」
修治はそう言いトントンとハンドルを指で叩くと、羽音は不満があるようににムスッとした態度で頬杖をつき窓の外を見つめた。
その隣で心奏が眠たそうにコクコクと頭が動いている。
「まだ昼前だろ。レストランの前にどこか行きたいところはないか?心奏」
修治の言葉に驚いた心奏がビクッと身体を震わせる。
そしてキョロキョロと周りを見渡し、質問を理解すると目元を擦りながら答えた。
「えっと、特に行きたいところは……」
「じゃあ、ここなんてどう?」
心奏の言葉を遮って、響彩がスマホを椅子の隙間から修治に向かって見せる。
修治はチラッとスマホを覗き見ると、また視線を前に戻した。
「そこに向かう。要にその場所を送っといてくれ」
修治が前を向いたまま淡々と言うと、響彩が「分かった」とスマホに目を移し、スマホに向かって何かを打ち始めた。
「要センパイの連絡先知ってんのか?初耳なんだが」
羽音が響彩のスマホを覗き込もうとすると、響彩が自身の隣に置いてあったクッションで羽音の顔を隠すように覆う。
ギャーギャーと騒ぐ羽音を横目に、響彩は引き続きスマホを操作しており、その様子をルームミラーで見た修治はため息をついた。
その横で心奏は苦笑いを浮かべていた。
「ここってどこ?」
駐車した車から降りると、心奏が辺りをキョロキョロと見渡しながら尋ねた。
すると、どこからか風に乗って潮の香りが辺りに広がった。
「海……?」
心奏の言葉に、車から降りてきた響彩が頷いた。
「そう。ここの海は綺麗らしいから。碧偉くんも海が見えるところに居たし、せっかくなら私達もって思って」
響彩がそう言いながら心奏の手を取り、軽く引っ張りながら整備された道を歩いていく。
心奏は響彩に促されるまま、響彩について行った。
それを見た志賀がカッカッカッと笑って、車の扉を開けた。
「これこれ、年寄りを置いて行くな」
「お前もまだ二十歳だろうが……」
志賀が車から降りながらそう言うと、修治がボソッと呟いた。
「高校生はまだまだ元気ですねぇ。置いて行かれないように気をつけないと〜」
夏目がニコニコと笑って心奏と響彩を見つめていると、羽音がはぁとため息をつき頭を掻いた。
そして、口元に手を当て先を進もうとする二人に声をかけた。
「おい、置いてくな」
羽音が声をかけると、心奏と響彩は立ち止まり振り返った。
そして、心奏が手招きをして羽音に向かって叫んだ。
「羽音も早く行こうよ〜!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべる心奏を見て羽音は呆れたように目を瞑り、また開いた。
そして羽音はため息をつきながら笑い、駆け足で心奏の元に駆け寄った。
羽音が心奏の隣に立つと、心奏は響彩と繋いでいる手とは逆の手で羽音の手を取った。
心奏は二人の手を取ったまま、海に続くであろう道を進んで行った。
「本当に、仲良しですねぇ……」
夏目の少し困ったような笑みと声に、志賀と修治も頷いたのだった。




