此処二眠ル
「着いたぞ。ここだ」
修治が立ち止まったのは、少しひらけ海が見える場所だった。
ひらけた場所の中心には小さな墓石のようなものが一つポツンと立っていた。
少し苔の生えた”それ”に心奏は近づいて行くと、目の前で立ち止まった。
羽音と響彩も心奏の後に続くと、それぞれ心奏の左右に立った。
「これ……」
響彩が思わず口を抑え、言葉を溢した。
羽音も目を見開き、そこにある“それ”を理解しようと頭を回しているようだった。
心奏は少し微笑み、彫られた文字を覆っていた苔や葉を手で払った。
”それ”には『神人碧偉 此処二眠ル』と彫られていた。
「碧偉のお墓だよ。碧偉には家族が居なかったから、もしかしたらと思って要くんに聞いてみたんだ」
心奏が哀しそうに呟くとその場にしゃがみ込み、墓石に手を当てた。
そんな心奏を二人は気まずそうに、静かに見守っている。
「要くんなら、僕の事を護ろうとした碧偉の事を最後まで面倒見てくれただろうな。ってね」
心奏がくしゃっと苦しそうに笑った。
「その通りだったよ……」
心奏が膝を付き目を瞑ったまま、まるですがりつくように墓石に額を合わせた。
石特有のひんやりとした冷たさと硬さが額から伝わる。
心奏の様子に、その場にいた誰一人として心奏に声をかけることは出来なかった。
暫くの間沈黙が続き、風によって木の葉が擦れる音だけが響き渡った。
そのままの状態で心奏は目を開けると墓石を見上げた。
「僕、もう泣かないよ。碧偉の分も目一杯頑張るから見守っててね…」
心奏がそう言って立ち上がると、くるっと振り向いて膝を叩いた。
その場にいた五人は心奏が振り向くとは思わず、ビクッと肩を震わせた。
「もういいのかえ?」
志賀が目を細めて心奏に尋ねた。
心奏はコクンと頷くとまた墓石の方を向いて、その奥に広がる大海原を見つめた。
高い位置に心奏達はいるため海の音が聞こえる事はなかったが、海の匂いだけは辺りに漂っていた。
「こんなにいい景色が見れるんだもん、きっと碧偉も幸せだよ。だから僕も、もう何も言うことはないよ」
心奏が満面の笑みでそう答えると、響彩がその場にしゃがみ込み墓石の前で手を合わせた。
それを見た羽音も慌ててしゃがみ、手を合わせた。
「神garuは心奏と私達で、世界に通用するような劇団にして見せますので見守っていてください。お名前、お借りします」
響彩がそう呟くと羽音も続いた。
「心奏のこともオレ達でしっかり護りますので、安心してください。心奏のこともお借りします」
「僕って借りなくちゃいけないものだっけ?」
羽音の言葉に吹き出した心奏が、口元を隠し笑った。
心奏が笑った事で羽音は頬を紅く染め、響彩は呆れたように笑った。
「用件が終わったなら帰るぞ。別のところにも行くんだろう?」
それまで黙っていた修治がその場にいた全員に声をかけた。
心奏達はそれぞれに頷くと、先を行く修治の後を追った。
「そういえば。碧偉は神garuの名前、貸してくれると思うよ」
心奏が思い出したようにそう言うと、響彩が「なんで?」と尋ねた。
その言葉に心奏は微笑んで上を見上げ、木々の間から差し込む光を眩しそうに見つめた。
「碧偉に言われたんだ」
『神garuをよろしくな』
「ってね……」




