協力者
『羽音はシャツ。響彩はスカート。伯父さんは手袋を見て』
紙に書かれた通り、三人はそれぞれ指摘されたところを見る。
「「「あっ!」」」
三人が同時に声をあげた。
羽音は内側のシャツを反対に着ており、響彩はスカートのポケットが外に飛び出ていた。
そして、修治の手袋は左右反対に着けられていた。
「三人共、僕を心配し過ぎだよ。自分の事もまともに出来てないよ」
心奏が笑いながらそう言うと、三人は頬を赤く染めた。
「あぁ、格好つかねぇな…」
羽音がシャツを脱ぎながら笑う。
「本当ね」
響彩もポケットを元に戻しながら微笑んだ。
「……」
修治は無言で手袋を外し、直していた。
「ハッハッハ。本当に、お主らは心奏が大好きよのう」
志賀が豪勢に笑う。
「うるせぇ!」
「うるさい!」
「うるさいぞ」
三人がまた同時に口にすると、志賀がしょぼんと肩を竦めた。
「わし、悲しい……」
嘘泣きをする志賀を横目に、心奏は困ったように微笑むのだった。
――コンコン――
「ちょっといいかなぁ」
病室の扉がノックされ、間を空けずに医者が病室に入ってきた。
その瞬間、病室の空気が変わった。
心奏達三人はそれに気付いたようで医者、志賀、修治を順に見ている。
「何か用かの?家族、友達水入らずで話していたのじゃが……?」
志賀の冷たい声に心奏は背筋がゾクッとした。
「ちょっと、ちょっと。なんか冷たくありませんか〜?せっかく頼まれていた当時の資料を見つけてきたっていうのに……」
医者は丸眼鏡を外すと、髪をガッと掻きあげた。
「こうやって、ぼくを顎で使うのってきみぐらいですよ〜。ぼくって意外と偉いんですよ〜」
医者の変化に目を丸くし、口をパクパクさせている三人に気付いた医者は、三人に向かって手を振った。
「ぼく、志賀くんの知り合いというか、友人なんですよ〜。だから、神々くん達の味方です」
やれやれというように頭を抱えた修治が医者の言葉に付け加えるようにして口を開いた。
「彼は夏目琉翔。心奏を護るために要が連れてきた奴だ」
修治の紹介に医者もとい夏目はニコッと微笑んだ。
そして、その名前に聞き覚えのあった響彩は首を傾げていたが、思い出したようで夏目を指差した。
「夏目琉翔って、うちの学校の卒業生で学校医じゃない!」
響彩の言葉に心奏と羽音は驚き、パッと夏目に視線を向けた。
「いや〜、よく分かったねぇ。そうそう、その夏目琉翔です〜」
夏目はヘラヘラと笑い、志賀に手に持っていた資料を手渡した。
「ご苦労じゃったな。夏目」
「本当、頑張ったんだよ〜?まぁ頑張っても、それ以外は見つからなかったんだけど」
夏目の言葉を横目にパラパラと資料をめくり、目を通していた志賀がある資料を見た瞬間、手を止めた。
「これは?」
志賀の指差す先を、眼鏡をかけ直した夏目が覗き込む。
「誰かの手記があったんですよねぇ。その人の手記は全部この病気について言及してたので、資料に入れ込みました〜」
夏目はそう言うと病室の時計を見て、少し慌てたように扉の方へ駆けていく。
「それじゃあ、ぼくはこれで。ちょっと、急ぎの用がありますので〜」
言い終わるか終わらないかというタイミングで、夏目は扉を開け急いで出ていった。
それを見ていた志賀以外の人物は、はぁと呆れたようにため息をついた。
「のう、心奏や……」




