相棒から仲間へ
「と、いう事だ」
志賀がそう言い終えると、羽音と響彩は顔を見合わせた。
二人共ありえないというような表情をしている。
「その研究をしていた医師はまだあの病院にいる。そして、今度は心奏を犠牲に研究を進めるだろうな……」
志賀がそう言った瞬間、羽音が志賀の胸ぐらを掴んだ。
それにも関わらず、志賀は落ち着いた表情で冷たく羽音を見ている。
「心奏が危ないのに、なんでお前はそんな堂々としていられんだよ!今すぐ行かねぇと心奏は……」
「わしが何もしていないように見えるか?」
羽音の言葉を遮り、志賀が冷たく言い放つ。
その威圧に耐え切れず、羽音は思わず手を離した。
「今、何が起こっているの?」
一部始終を見ていた響彩が志賀に問いかける。
志賀は冷たい表情から一変、安らかな笑顔を浮かべた。
「この学校の校長、心奏の担当医師を始め、心奏の周りにはわしらの息がかかっている者達がいる。心奏の記憶に関しては今、修治殿が奮闘している真っ最中じゃろう」
志賀がそう言うと、クルッと二人に背を向けた。
「じゃが、今から心奏の元に行くのは賛成じゃ」
志賀は首だけ後ろに向けそう言うと、屋上の扉の方へ歩き出した。
羽音と響彩も互いに顔を見合わせ頷いたあと、志賀の背中を追って駆けたのだった。
心奏は病院の屋上にいた。
もう日はほとんど沈んでしまって、辺りが暗闇に包まれかけていた。
「全部……思い出した…」
心奏はそう呟くと、頭から手を離した。
頭の激痛はいつの間にか綺麗さっぱり無くなっている。
「僕は。僕らは、死ぬしかなかったのか?」
心奏が呟いた瞬間、屋上の扉がガタンと開いた。
その扉の奥からは修治が顔を見せた。
心奏は思わぬ来客に驚いていると、急な胸の激痛に襲われ胸を押さえ丸まった。
そのただならぬ様子に、修治は心配そうな顔で心奏に駆け寄ろうとした。
だが。
「来るな!」
心奏は痛む胸を押さえ必死にそう叫んでいた。
「知ってたんでしょ⁉何もかも!センセイ達は、伯父さん達は全部!」
心奏がそう叫ぶと、修治は困惑したような表情で心奏から目を離した。
目から涙が溢れた。
相棒、神人碧偉はもう生きていない。
それを思い出してしまったからだ。
「僕は碧偉の変化に気付いてあげれなかった。碧偉はもういない!僕のせいで!」
心奏の思わぬ言葉に修治は目を見開き、心奏を見た。
流れ続ける涙を袖で拭う心奏はまるで、あの日碧偉にしがみつき泣いていた幼い頃に戻ったようだった。
「それは……」
「それは違うぞ」
修治の言葉を遮り、修治の後ろから志賀が屋上に出てきた。
「碧偉はお主だけでも守ろうとした。あの日の早朝、碧偉はわしをここへ呼び出した」
志賀の言葉を聞き、心奏は驚いた表情で志賀を見た。
「碧偉はわしにこう言った。『しおんだけはまもれ』とな」
心奏は泣き崩れた。
そこに、志賀の後ろから飛び出した羽音と響彩が駆け寄る。
「「心奏!」」
心奏は二人の腕の中で子供のように大声で泣きじゃくった。
胸の痛みもいつしか気にならなくなるほど小さくなっていた。
今は新しい仲間がいる。
心奏がそう気付くには十分すぎる時間だった。
「混ざって来なくとも善いのか?」
志賀がニヤリと笑って修治に問いかけるが、修治はため息をついて志賀の頭を小突いた。
「邪魔をする訳には行かないからな」




