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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第三幕『Abendrot und Silber』
70/150

心奏の過去【絶望と喪失】

「じゃあ、行ってくるな!」

 碧偉(あおい)心奏(しおん)に手を振り、病室の扉を開ける。

「頑張ってね……」

 目に涙を溜めた心奏が片手で修治(しゅうじ)の服を、片手で碧偉に向かって手を振った。

 そんな心奏を見て、碧偉は苦しそうに微笑み心奏を抱き締めた。

「ぜったい!ぜったい帰ってくるから!だから…!」

 碧偉の目から涙が溢れる。

 心奏も声を殺して泣いていた。

「だから、待ってて?おれはおまえをおいて行ったりしないから…!」

 碧偉の言葉に、心奏はコクコクと頷いた。

 そして、身体を離すと碧偉はまた手を振った。

「じゃあな!」



 数時間後。

 病室に沢山の看護師が行き来し、碧偉のベッドを片付けていた。

「碧偉は?どうして片付けてるの?」

 心奏が一人の看護師の服の裾を引き、看護師の視線を引くと言った。

「え、えっと……」

 看護師の困ったような表情に心奏は何かを察し、看護師や修治の制止も聞かずに病室を出て行った。

 心奏は走った。目的も場所も分からず。

 エレベーターに乗り込み、心奏は手が届くボタンを必死に押す。

 バタバタという音が近づいて来たが、その音が辿り着く前にエレベーターの扉が閉まり、ガタンッと動き出した。

「碧偉……」

 心奏がそう呟く頃にはエレベーターは止まり、扉がゆっくり開いていた。

 エレベーターから急いで降りると、心奏は訳も分からず手前の部屋から順に扉を開け覗きながら走る。

「違う……違う……違う……違う……!」

 心奏がそう呟きながら、とある部屋の扉を開けたときだった。

 目を疑った。涙が頬を伝った。

 部屋の真ん中に黒と真っ赤な()()があった。


 白銀の解かれた髪。固く閉じられた目。力なく垂れる腕。そして。

 ()()()()…。


「碧偉…………?」


 心奏が大きな目をもっと大きく見開き、その何かにゆっくりと近づく。

「碧偉!碧偉!」

 心奏は碧偉だったものの身体を強く揺さぶる。

 しかし動かない。

 心奏がふと碧偉が寝かされている台の隣を見た。

「心臓……?」

 真っ赤な心臓がそこにはあった。

 動かないはずだ。

 心臓が身体に無いのだから、動かないに決まっている。

 心奏はその場に崩れ落ちた。

「碧偉が、なんで?なんで……なんで、なんで、なんで!」

 心奏が碧偉の手を握る。

 その手はひんやりと冷たい。

「あぁぁぁ!!」

 心奏がそう叫んで碧偉に抱きつく。

 碧偉の血が心奏に付き、広がっていく。

 まるで、心奏を包み込んでいく絶望のように。


「心奏!」

 修治が部屋に飛び込んでくる。

 そして碧偉に抱きついている心奏を抱き剥がそうとしたが、幼い子供とは思えないほどの力に修治は目を見開く。

「心奏!」

 もう一度心奏に叫ぶと、心奏が意識を失った。

 同時に医師や看護師が次々と部屋に入ってくる。

 その医師達の方を向き、修治がキッと睨む。

「これはどういう事だ?なぜ、碧偉はこうなっている?」

 修治の言葉に数名の医師が動揺する。

 それを修治は見逃さなかったが、医師や看護師が退出を強制したため、それ以上はどうする事も出来なかった。



「心奏?」

 数時間後、心奏は病室で目を覚ました。

 それに気付き志賀(しが)が心奏の顔を覗き込む。

 それに続いて修治、そして心奏の母親が心奏の顔を覗き込んだ。

 心奏はパチパチと瞬きをしている。

 どこか遠い目をしていたが、心奏は目のピントが三人に合うと言った。


「あなたたちは……だれ、ですか?」

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