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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第三幕『Abendrot und Silber』
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心奏の過去【憧れと失望と優しさと】

 劇場の中に入った心奏(しおん)達は演劇が始まるのを席に座って待っていた。

 心奏の左側には心奏の母親と思われる女性が座り、そのまた左に心奏の父親、そして心奏の右側には碧偉(あおい)が座っていた。

 しばらくして舞台の幕が上がり、演劇が始まった。

 舞台上では代わる代わる役者たちが一喜一憂(いっきいちゆう)している。

 その中でも一際異彩を放ちながら舞台に立つ一人の笑顔の青年に、客席にちょこんと座った心奏は目を奪われていた。


「あの人、ずっと笑顔だ……」


 心奏は舞台上の隅で笑っている役者に釘付けになっていた。

 それは隣に座る碧偉も同じだった。

「母さん、あの人はなんて役をやっているの?」

 宝石のようにキラキラした瞳が舞台上から、隣に座る母親へと視線を移す。

 碧偉も同じように、心奏の母親を覗き込む形で見た。

「彼は道化師(どうけし)といってピエロみたいに皆を笑わせる役をやっているのよ」

 その言葉に心奏はさらに瞳を大きくすると、また舞台上に釘付けになった。

 小さな背を目一杯伸ばして、その大きな瞳に舞台の全てを記録させるように。

「僕もいつか、あの人みたいに皆を笑わせられるような人になれるかな?」

 感情を昂ぶらせて大きな瞳をより一層大きく見開きながらも、力なく笑う姿はどこか、道化師を羨ましく思っているようだった。

 碧偉も同じように微笑み舞台を見ていたが、それはどこか遠くを見ているようだ。

 その重苦しい空気を払うように心奏の頭にぽんっと手が置かれた。

「きっと、あなたにもなれる日がくるわ。今は急がなくてもいいの。碧偉くんもよ」

 心奏の母親の言葉に心奏と碧偉は目を丸くした。

「おれも、なれる?」

 碧偉の伺うような言葉に、心奏の母親は笑って碧偉の頭を撫でた。

「ええ。きっと。二人なら大丈夫よ」

 そして、優しい声色で二人を落ち着けるように言った。


「ゆっくり、ゆっくり自分のペースでなりたい自分になれれば……」



 碧偉の手術がある日の前日の夜。

 心奏と碧偉は窓側にある心奏のベッドに二人で座り談笑していた。

「なぁ、しおん。明日、おれさ……」

 碧偉がそう口にすると、心奏はニコッと微笑みかけた。

「手術だったよね。絶対元気になって戻って来てね」

 心奏の言葉を聞いて、碧偉の目が揺らいだ。

 そして何か言いたげな表情になったが、心奏はそれに気付いていないようだった。

 碧偉もそれに気付いたようで哀しそうに笑った。

「あぁ、ぜったい帰るよ。おれは……」

 碧偉の言葉に心奏は、より一層にこやかに笑った。



 心奏の寝息が聞こえ始めた頃、碧偉は数日前聞いた事を自身のベッドの上で思い返していた。

 碧偉が病院の中を探検していたときのこと、とある一室から話し声が聞こえてきた。


――彼らの身体は新人類と言っても過言ではありません。彼の年齢は今年で九歳ですが身体は七歳のときから変わっておりません。

 心臓は我々の八分の一から十分の一ほどの鼓動しか刻んでいないにも関わらず、私達と同じ動きや生活が可能です。また、血液中の赤血球の数は変わりませんが、赤血球の性質が少し変化していました。

 そして神人碧偉に限っては、その体質に完全に対応しています。彼の身体、心臓を調べてみれば我々が不老不死になる日も近くなるはずです――


「あれは、何だったんだろ?おれにはむずかしくって分からなかったけど。でも、なんだか悪い予感がしたんだよな」

 碧偉がそう呟くと、心奏が寝返りを打ち碧偉はビクッと身体を震わせた。

 バッと心奏の方を碧偉は目を丸くして見た。

「しおんには、言えないな」

 碧偉は困ったように微笑むと布団に包まった。

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