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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第三幕『Abendrot und Silber』
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心奏の過去【神garuの由来】

「劇団?」

 雑誌や紙を広げたベッドの上で心奏(しおん)が首を傾げる。

「そう!おれたちが元気になって、たいいんしたら一緒にげきだんを作ろう!」

 碧偉(あおい)が手を目一杯広げ、キラキラした目で心奏に言う。

 それを見た心奏は同じようにキラキラした目をし、同じくキラキラした目をする碧偉に目を向ける。

「僕も一緒に?本当に?」

「あぁ、しおんとおれだけのげきだん!おれのゆめは世界に通用するようなえんじゃになることなんだ!だから、しおんもおれといっしょにえんじゃになってよ!」

 碧偉が心奏の手を取りそう言うと、心奏はコクコクと頷いた。

 心奏と碧偉は二人で見つめ合い笑った。

「じゃあ碧偉も僕も一緒に絶対元気にならなきゃ!」

 心奏が満面の笑みでそう言うと、碧偉は「おう!」と答えた。

 そして、心奏は落ちていた真っ白な紙とペンを碧偉に差し出した。

「劇団を作るなら、名前がないと。ね?」

 心奏の手から紙とペンを受け取ると、スラスラとペンを走らせる。

「かみ、かみ……なんて書いてあるの?」

 碧偉の書いた紙を覗き込みながら、心奏が碧偉に問う。

 紙には()g()a()r()u()と書かれている。

「シングルだ!おれたちの名前には二人共、神が入ってるだろ?それってしんって読むんだって!あと、後ろのやつはろーまじ?ってやつらしい。看護師さんが言ってたんだ!」

 心奏は碧偉のその言葉に目を輝かせた。

「しんぐる、シングル、神garu(シングル)。うん、良い名前だね!」

 心奏の言葉に碧偉は胸を張った。

 そして、碧偉は神garuと書かれた紙をセロハンテープで壁に貼った。

「おれたちは神garuになるために、ぜったい病気をなおすんだ!」

 碧偉はそう言ってベッドの上に立ち、拳を高く突き上げたのだった。



 数カ月後。

 心奏は碧偉に手を引かれ、とある劇場の前にいた。

 数日前に碧偉の手術が決まり、手術前に好きな事を一つしても良いという医師の言葉に、碧偉は心奏と共に大好きな劇団の演劇を見に外出する事を選んだのだ。

 そのため碧偉と心奏はここ数日間、沢山の演劇を病室で見ており、二人は今日をとても楽しみにしていた。

 碧偉には親も家族もいない。いわゆる孤児であったため、碧偉と心奏だけでなく心奏の両親も含めた外出だった。

「早く行こうぜ!しゅじゅつの前のさいごのお出かけなんだからな!」

 碧偉が心奏の手を引き、劇場の大きな扉を指差す。

 心奏は息を乱しながら、碧偉の駆け足についていく

「ちょ、ちょっと待ってよ。もう少しゆっくり行こうよ」

 心奏の言葉も碧偉には届かず、碧偉はなおも心奏を引っ張っていく。

 次の瞬間だった。

「あっ…!」

 心奏が石に躓き前に倒れそうになった。

 その心奏を両手で抱え、心奏を抱き抱えた男性が碧偉の頭に拳骨を入れる。

 頭を押さえて、その場にしゃがみ込む碧偉を見ながら男性が言った。

「人に気を配り人の話を聞け、馬鹿者。心奏が怪我したらどうするつもりだったんだ」

 男性の言葉にシュンとなる碧偉を見て、心奏は「父さん」と言って続けた。

「父さん、僕は大丈夫だから。碧偉と一緒にあっち見てきてもいい?」

 心奏の言葉に、父さんと呼ばれた男性はため息をつくと、心奏を下ろした。

 そして心奏の前にしゃがみ込み「危ない事はするなよ」と言い、心奏を送り出した。

 心奏は碧偉の手を引き歩き出した。

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