心奏の過去【出逢い】
心奏は今と同じような、とても優しい性格だった。
しかし、今とは違って人見知りで臆病でもあった。
それに加え、長期入院の所為で世間知らずときた。まさに箱入り息子といったものだ。
本を読む事や、伯父である修治殿と勉強する事が好きだった事が幸いか、同年の子よりもある程度知識は身についていた。
だが、所詮は子供。
大人達の渦巻く悪意なんて気付くはずもなかった。
碧偉君と出会ったのは心奏が四つになる年の、ある春の日だった。
「綺麗だね」
心奏は夕焼けに照らされて紅く輝く三つ編みの髪を見て、思わず柵の上の少年に声をかけた。
その瞬間、少年が心奏の方を振り返った。
猩々緋色の瞳が心奏を捉え、口元が微かに緩む。
「はっはっは。おれがきれい?おどろいたな」
柵の上に胡座をかいて座る少年は頬杖をつきながら、猩々緋色の瞳を細める。
心奏は声をかけた事を今になって後悔した。
目の前にいる少年は心奏と同じ病室に入院する患者だったからだ。
心奏が気まずそうに手の指と指を絡めていると、少年がまた豪快に笑う。
「いや、ごめん。あまりにおかしな事を言うもんだから、つい。べつにおまえの事をわらったんじゃないぜ?」
少年は心奏を見たまま言う。
心奏がその場から動けずにいると、白銀の髪が風に吹かれ、またも夕焼けに照らされキラキラと紅く輝く。
心奏は首を横に振って、少年の方を見た。
「だ、大丈夫。き、君は僕と同じ部屋の子だよね?僕は神々心奏。君の名前は?」
心奏の言葉を聞いて、目をぱちくりと丸くしていた少年が、すぐにニカッと笑い柵から飛び降りた。
「同じ部屋?そういやそうだったな。おれの名前はな神人碧偉って言うんだ。よろしくな」
そう言って碧偉は手を差し出す。
口をあんぐりと開けていた心奏だが、碧偉から差し出された手を見て顔を背けた。
「よ、よろしく」
そうして心奏は碧偉の手を握った。
ギュッと握られた手は二人とも少し冷たかったが、少々の温もりを二人で分け合った。
「なぁ、しおんー。いっしょに病院のたんけんに行こうぜー」
二人が出会ってから何日後かのある日。
碧偉が心奏のベッドに突っ伏しながら言った。
「さっき、看護師さんが今日は二人ともあんせい?にって言ってたでしょ」
心奏がそう言うと、碧偉はプクッと頬を膨らませ布団に顔を埋めた。
「だってさー。おれたちは元々しんぞうの動きがおそいんだろ?おれはとくにさ。でも元気じゃん」
布団が声を吸収しているせいで、碧偉の声が籠っているように聞こえる。
心奏はそんな碧偉の頭を撫でてニコッと微笑んだ。
「明日、明日は一緒に探検しよう?ね?」
心奏の言葉に、不貞腐れていた碧偉もチラッと顔を上げた。
そしてバッと起き上がると心奏の手を取り目を輝かせた。
「ぜったいだぞ!ぜったい!」
心奏は、ははっと笑うと碧偉を見つめた。
「うん。絶対ね」
そう心奏が返すと、碧偉は心奏のベッドを横断するように仰向けに寝転がった。
「でも、今日がひまな事はかわらないよな」
碧偉の言葉に、心奏は思いついたようにポンッと手の平に拳を置くと、ベッド脇の棚からトランプを取り出した。
「じゃあ、これでもやらない?僕の伯父さんや要くんが来るまでだけど」
碧偉は心奏の手からトランプを受け取り、キラキラとした目で見つめるとコクコクと激しく頷いた。
「うん。やろうぜ!」




