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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 百良
第三幕『Abendrot und Silber』
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心奏の過去【出逢い】

 心奏(しおん)は今と同じような、とても優しい性格だった。

 しかし、今とは違って人見知りで臆病でもあった。

 それに加え、長期入院の所為で世間知らずときた。まさに箱入り息子といったものだ。

 本を読む事や、伯父である修治(しゅうじ)殿と勉強する事が好きだった事が幸いか、同年の子よりもある程度知識は身についていた。

 だが、所詮は子供。

 大人達の渦巻く悪意なんて気付くはずもなかった。

 碧偉(あおい)君と出会ったのは心奏が四つになる年の、ある春の日だった。



「綺麗だね」

 心奏は夕焼けに照らされて紅く輝く三つ編みの髪を見て、思わず柵の上の少年に声をかけた。

 その瞬間、少年が心奏の方を振り返った。

 猩々緋(しょうじょうひ)色の瞳が心奏を捉え、口元が微かに緩む。

「はっはっは。おれがきれい?おどろいたな」

 柵の上に胡座(あぐら)をかいて座る少年は頬杖をつきながら、猩々緋色の瞳を細める。

 心奏は声をかけた事を今になって後悔した。

 目の前にいる少年は心奏と同じ病室に入院する患者だったからだ。

 心奏が気まずそうに手の指と指を絡めていると、少年がまた豪快に笑う。

「いや、ごめん。あまりにおかしな事を言うもんだから、つい。べつにおまえの事をわらったんじゃないぜ?」

 少年は心奏を見たまま言う。

 心奏がその場から動けずにいると、白銀の髪が風に吹かれ、またも夕焼けに照らされキラキラと紅く輝く。

 心奏は首を横に振って、少年の方を見た。

「だ、大丈夫。き、君は僕と同じ部屋の子だよね?僕は神々(みわ)心奏。君の名前は?」

 心奏の言葉を聞いて、目をぱちくりと丸くしていた少年が、すぐにニカッと笑い柵から飛び降りた。

「同じ部屋?そういやそうだったな。おれの名前はな神人(かみひと)碧偉って言うんだ。よろしくな」

 そう言って碧偉は手を差し出す。

 口をあんぐりと開けていた心奏だが、碧偉から差し出された手を見て顔を背けた。

「よ、よろしく」

 そうして心奏は碧偉の手を握った。

 ギュッと握られた手は二人とも少し冷たかったが、少々の温もりを二人で分け合った。


「なぁ、しおんー。いっしょに病院のたんけんに行こうぜー」

 二人が出会ってから何日後かのある日。

 碧偉が心奏のベッドに突っ伏しながら言った。

「さっき、看護師さんが今日は二人ともあんせい?にって言ってたでしょ」

 心奏がそう言うと、碧偉はプクッと頬を膨らませ布団に顔を埋めた。

「だってさー。おれたちは元々しんぞうの動きがおそいんだろ?おれはとくにさ。でも元気じゃん」

 布団が声を吸収しているせいで、碧偉の声が籠っているように聞こえる。

 心奏はそんな碧偉の頭を撫でてニコッと微笑んだ。

「明日、明日は一緒に探検しよう?ね?」

 心奏の言葉に、不貞腐れていた碧偉もチラッと顔を上げた。

 そしてバッと起き上がると心奏の手を取り目を輝かせた。

「ぜったいだぞ!ぜったい!」

 心奏は、ははっと笑うと碧偉を見つめた。

「うん。絶対ね」

 そう心奏が返すと、碧偉は心奏のベッドを横断するように仰向けに寝転がった。

「でも、今日がひまな事はかわらないよな」

 碧偉の言葉に、心奏は思いついたようにポンッと手の平に拳を置くと、ベッド脇の棚からトランプを取り出した。

「じゃあ、これでもやらない?僕の伯父さんや(かなめ)くんが来るまでだけど」

 碧偉は心奏の手からトランプを受け取り、キラキラとした目で見つめるとコクコクと激しく頷いた。

「うん。やろうぜ!」

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