地下の記憶
「こっちかな?」
曲がり角の壁から心奏が顔を覗かせる。
心奏は点滴スタンドを引きながら、地下に行くためエレベーターを探していた。
部屋で病院の地図を見たのにも関わらず、心奏は先程からグルグルと同じところを回り続けている。
「おやぁ?神々くん、どうしたんだい?」
「あっ、医者。地下に行ってみようと思って地下に行くエレベーターを探しているんですけど、見当たらなくて……」
医者は心奏の言葉に困ったように笑ったが、心奏の手を引き前を指差した。
「じゃあ、ぼくと一緒に行こうか。エレベーターはこっちだよ〜」
医者がそう言うと心奏は頷いて、もう片方の手で点滴スタンドを引いた。
少し歩くと心奏達はエレベーターの前に着いた。
歩いた時間は心奏が探し回っていた時間の約三分の一ほど。
「医者、ありがとうございました」
「うん。気をつけて行ってきてねぇ。あとちょっとで日も暮れるから早めに部屋に戻ってくださいねぇ」
医者の言葉に心奏は「はい!」と元気よく応えると、エレベーターのボタンを押した。
しばらくして来たエレベーターに心奏はさっそく乗り込み、B1のボタンを押して地下に降りて行くのだった。
地下に降りた心奏は珍しいものを見るかのように目を輝かせ、キョロキョロと辺りを見渡していた。
「病院って色んな所があるんだなぁ」
心奏がそう呟きながら歩いていると、心奏の視線はとある一か所に釘付けになった。
そこから視線を離さず、心奏は駆け足でそこに近づいていく。
その場所の前で心奏は足を止めた。
「ここ……」
霊安室と掲げられているその部屋から、なぜか心奏は目を離せずにいた。
「来たことあるような……」
心奏がそう呟いたとき、心奏の頭に激痛が走った。
思わず頭を抱える心奏の頭の中に知らない記憶が入り込んできた。
白銀の髪。猩々緋色の瞳。クシャッと笑った笑顔。頭を撫でられる感触。看護師や医師達の同情の眼。涙が伝う頬の熱。冷たい空気。そして、身体の外にある真っ赤な心臓。
「き…みは……」
心奏が痛みに耐えながらもそう口にすると、次は夕焼けが心奏の頭の中を埋め尽くした。
頭を押さえながら心奏はエレベーターの方へ走った。
「行かなきゃ…!」
心奏の心が告げていた。
行かなければ後悔する、と。
「おう、こっちじゃこっちじゃ。草柳君、天野君」
志賀が屋上の扉から顔を覗かせた羽音と響彩に声をかけた。
空はもうすでに夕焼け色に染っている。
「何なんすか?急に放課後屋上に来いだなんて。あと、授業中に廊下駆けて行きながら伝えるのやめてもらえます?めっちゃ恥ずかったんですけど……」
羽音が頭を掻きながら言い、志賀の方へ歩いていく。
その後ろを不機嫌な顔をした響彩が続く。
「はっはっは、すまぬすまぬ。急いでおった故、許してはくれぬか?」
志賀が笑いながら言うと、羽音は「今後しねぇなら」と言って志賀の隣に立ち柵に腕を乗せた。
羽音の隣に響彩は立ち、志賀の方を覗き込んだ。
そして羽音と響彩の二人は志賀の話を待つかのように、志賀の顔を見つめた。
「お巫山戯はここまでじゃのう。ここからは真面目な話。心奏について、だ」
ニコッと細めていた目をカッと開き、志賀は二人を交互に見た。
羽音と響彩は、志賀から思わぬ名前が飛び出し目を丸くした。
「お主達は知っておく必要がある。わしの事、そして……心奏の事」




