表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 百良
第三幕『Abendrot und Silber』
63/150

志賀と修治

「今回は少し寝ぼすけじゃったのではないか?心奏(しおん)君」

 病室の中、椅子の背を前にして跨っている志賀(しが)がベッドに座る心奏に声をかける。

「はは。そうかもしれませんね」

 心奏は笑いながらそう答えると、窓の外の澄み渡る空を見つめた。

「また入院に逆戻りです。それに今回の入院は長引くだろうって医者が……」

 心奏が哀しそうに目を細めると、志賀は椅子から立ち上がりベッドの側の机の上にあった林檎を一つ手に取り、同じく側にあった果物ナイフで林檎の皮を剥き始めた。

「人生そういう事もあるじゃろうて。人生は長い。わしだって怪我の一つや二つくらいある。楽しい事が過ぎれば辛い事が来るのは当たり前というものよ」

 志賀はそう言うと、切り出した林檎を心奏に差し出した。

「栄養を沢山取って出来るだけ早く回復するのが、今の心奏君のする事じゃ。大丈夫、お主が入院していようとしていまいと、お主の事を大事に思っている者はいるんじゃからな」

 志賀が差し出した林檎を心奏は手に取り、一口齧った。

 それを見て志賀も林檎を一切れ口に運ぶ。

 口の端に付いた果汁を親指で拭うと、志賀は心奏の方に向き直り微笑んだ。

「焦らず、ゆっくり自分のペースで回復すれば善い。わしも皆もお主の事を待っておるからの」

 志賀はナイフと切りかけの林檎を机の上の皿に置き、心奏の頭を撫でた。

 心奏は志賀の言葉に頷きつつも、林檎を口に運んでいた。


「お前、居たのか?」

 ガラガラと音を立て、病室の扉を開けた修治(しゅうじ)が志賀を見て驚いたように声をかけた。

「あぁ、誰かと思えば!久しぶりじゃのう修治殿、いや()()()()じゃったかの?」

「その呼び方はやめてくれ。で、心奏に何の用だ?」

 志賀が嬉しそうに修治に声をかけたが、修治は嫌そうな表情を浮かべ病室の中に入ってきた。

「なぁに、少しの雑談じゃよ。一応先輩として見舞いに来るのは基本じゃろ?」

 志賀がまた椅子に座り直すと、修治は違う椅子を取って来て志賀の隣に座った。

()()、な。お前は昔からそういう面倒な性格だったな」

「修治殿もお変わりないようで」

 修治と志賀の掛け合いを、林檎を食べながら聞く心奏だったが、ふと二人の視線が心奏に集まり、心奏は目を丸くした。

「今日も元気そうだな」

「あぁ、わしが来た頃にはもうピンピンしておったからのう」

 二人の言葉に心奏はニコッと微笑むと、また窓の外の空を見つめた。

 心奏が外を見つめたのを確認すると、志賀が修治に言った。

「少し二人で話さんか?久しぶりの再会じゃしのう」

 志賀がそう言うと、修治は黙って椅子から立ち上がった。

「全く不器用な一族じゃの…」

 志賀はボソッとそう呟くと、自身も椅子から立ち上がる。

 志賀が椅子を元の位置に戻す頃には、修治は病室の扉の前で腕を組んで壁に背中を預けていた。

「早くしろ」

「分かっておるよ」

 修治の威圧的な言葉に、志賀は柔軟に答え扉に向かって歩き出した。

 心奏は二人の様子を伺っていたが、それに気付いた志賀が扉の辺りで心奏の方を振り返りウインクをした。

「少し雑談をしてくる(ゆえ)、心奏君は林檎でも食べて待っていておくれ」

 志賀の言葉に心奏はコクンと頷き、また視線を窓の外に移した。

 それを確認した志賀は静かに扉を閉め、病室を後にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ