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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第三幕『Abendrot und Silber』
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生きてる

 本殿の隣の覆殿の裏口から出た心奏(しおん)達は、駐車場から本殿に向かう石畳を駐車場の方に向けて歩いていた。

「結局、今日は何もしてねぇじゃねぇか。せっかく劇も全部揃えて来たのによ」

 羽音(ねお)が少し怒りの籠ったような声で言う。

「そうね。ただ授業が遅れただけだったわ」

 響彩(とあ)も羽音に同意し、胸の前で腕を組んだ。

「僕は……」

 心奏が言葉を詰まらせていると、いきなり心奏の身体がフラッと斜めに傾いた。

「「心奏!」」

 羽音と響彩がそう叫ぶのと同時くらいに、修治(しゅうじ)が心奏の身体を支えた。

 心奏は先程とは打って変わって、目を閉じぐったりとしている。

「心奏…!」

 心奏の身体を掴んだままの修治の手は小刻みに震えている。

 修治が心奏の身体を揺するが、心奏はまだ目を閉じたまま。

「クソッ……早く病院へ行くぞ!」

 修治は心奏を抱き抱えると、後ろで並んで歩いていた羽音と響彩に声をかけた。

 そして、心奏を抱き抱えたまま走り出す。

 羽音と響彩もそれに続き、三人は駐車場までの道を急いだのだった。



「命に別状はありません。ですが、入院していたときと同じくらい猛烈に心拍が低くなっています」

 病室から出てきた医者がカルテと思わしき書類を片手に、修治に向かって説明する。

「とりあえずは様子見という形になるかと……」

「それじゃ、心奏はどうなんだよ!?いきなり倒れたんだぞ!?」

 医者の言葉に、羽音は怒り心頭といった様子で医者の胸ぐらを掴んだ。

 響彩は壁に背中を預けたまま俯いている。

「やめろ」

 修治が羽音の手に軽く触れると、羽音は掴んでいた医者の服を離した。

「もう病室に入れるのか?それと、心奏はあとどれくらいで目覚める?」

 修治の低くドスの効いた声に、臆する事なく目を伏せる。

「病室には入っていただけます。ですが、いつ目覚めるかというのは何とも……」

 医者の言葉に修治は「分かった」とだけ答え病室の扉を開けた。


 個室の病室の窓際のベッドでは、心奏が沢山の点滴に繋がれ寝かされている。

 ベッドサイドモニタには心拍数が表示されているが、明らかに低い。

 一般の人と比べずとも低いと分かるその数字だが、今心奏が生きているという事実を表すのはそれで十分だった。

 修治と羽音、響彩は病室の扉を閉めベッドの方へ、心奏の方へ向かう。

「生きてるんだよな?ちゃんと心臓は動いてるんだよな?」

 羽音が力なく呟くと、修治が羽音の手を取り心奏の手に触れさせた。

 心奏の手はほんのりと温かく、それでいてどこか人の体温よりも少し冷たかった。

「生きてる。ちゃんと……」

 羽音は心奏の手を握ると、目の縁に涙を浮かべた。

 響彩も離れた位置で目から涙を流している。

「心奏はお前達に何も言わずに居なくなるような奴じゃない。大丈夫だ。きっと」

 心奏が倒れる前に発した一言を修治が言った事で、羽音はより一層握る手に力を込めた。

「センセイ、明日もここに来ていい?心奏が目覚めて無くても」

 響彩が静かに尋ねると、修治は静かに頷いた。

「いつでも来たらいいさ。心奏は、きっと喜ぶ」

 修治がそう答えると、病室の中に沈黙が流れた。

 病室の中にはモニタから流れるピッ、ピッという電子音のみが響いていた。

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