EP.2『絶対に、私の前から』
「ねぇ、どうして君はいつもここで泣いているの?」
道化師が日陰で座り込んでいる歌姫の顔を覗き込んだ。
歌姫は道化師が伸ばした手を振り払い、キッと睨みつける。
「アンタには関係ないでしょ!放っておいて!」
歌姫が再び顔を背けると、道化師は歌姫の前にしゃがみ込み手を歌姫の頭に乗せた。
そして歌姫の頭を撫でる。
「関係なくても泣いてる子を放って置くほど、僕は冷たい人間じゃないよ」
道化師はそう言うと、歌姫の瞳から溢れた涙をもう一方の手で拭った。
歌姫は止まらない涙に戸惑いながらも、道化師の優しい手に身を任せた。
「どう?落ち着いた?」
涙が止まった歌姫の横に道化師は座りながら、歌姫に話しかけた。
歌姫はコクンとだけ頷き、地面を歩く蟻の行列を見つめた。
「なんで、私に話しかけたの?私は疫病神なのに……」
歌姫が蟻の行列を見つめたまま、道化師に向かって問いかけた。
道化師はにっこりと優しい笑みを浮かべると、歌姫と同じく蟻の行列を見つめた。
「君にお願いがあってね」
「何?」
道化師の言葉に歌姫は、道化師の方を向いた。
道化師は歌姫の方に顔を向け、歌姫と目を合わせた。
そして、またにっこりと優しい笑みを浮かべた。
「僕と一緒に劇団を作ろうよ」
道化師の思わぬ一言に歌姫は目を丸くした。
そして思わず「え?」と口にしたが、道化師はそのまま続ける。
「君の声と歌は素晴らしい。だから君の力を借りたいんだ。僕一人じゃ劇団は成り立たない」
道化師の先程とは打って変わった真剣な眼差しに、歌姫は少し戸惑ったが、道化師の真剣な瞳を見つめ返した。
「分かった。でも一つ条件があるの……」
「なんだい?」
歌姫は微笑んで立ち上がった。
そして座ったままの道化師の方に振り返った。
「絶対に、私の前から居なくならないでね」
歌姫が道化師に手を差し伸べる。
夕日が歌姫の後方から顔を覗かせた。
――きっと。きっと、アナタなら。




