神主の戯言
売店に着いた心奏達は初老の男性の指示の元、お守りを売っていた。
売店の前には心奏達を一目見ようと並ぶ神garuのファン達や、その列に釣られた一般のお客さんで長蛇の列が出来ていた。
三手に分かれお守りを売っていても、一向に減る気配のない列を目の前に響彩がポツリと呟いた。
「これが、本当の目的だったんじゃない……?」
響彩の呟きに、隣でファンの相手をしていた心奏は苦笑いを浮かべ「かもね」と呟いた。
その後、二時間ほど経過した辺りでそこに用意していたお守りが無くなり、初老の男性が強制的に売店を閉めた。
そして、二時間ずっとお客さんの相手をしてヘトヘトの三人を見て言った。
「こちらが本日、本当にやって欲しかった依頼なのです。演劇は二の次だったのですよ」
「でしょうね!?」
初老の男性の言葉を聞いて、羽音と響彩が口を揃えて言った。
「んで、演劇はどうすんですか?もうそんな体力残ってねぇけど?」
羽音が今出来る精一杯の敬語で初老の男性に尋ねる。
「演劇は構いません。この老いぼれの頼みを聞いてくださっただけで良いのです」
「それじゃあ、僕らである必要なかったんじゃ?」
初老の男性の言葉に疑問を持った心奏はすかさず尋ねた。
「いや、君たちでないといけなかったんだよ。”見るもの全ての心を掴む”という君たちでないとね」
心奏達三人はそんな事聞いたこともないというように、互いに顔を合わせ首を傾げた。
「君たちの事を後ろから見ていて、訳が分かったかもしれない」
初老の男性はそう続け、心奏達に背を向けた。
「老いぼれの戯言に付き合わせてしまいましたな。着替えの場所を準備させますので、行きましょうか」
初老の男性が振り返りニコリと微笑むと、ついてこいとでも言うように背を向け歩き出した。
「待ってください」
心奏は初老の男性を引き留めると、不安そうに眉を下げた。
「貴方には何が見えるのですか……?」
心奏の問いに初老の男性は少しだけ表情が強張ったように見えたが、ニコリとしたまま問いには答えず軽く呟いた。
「さぁ……ね」
心奏達は特に進展のないまま、部屋に通され着替えていた。
心奏の心にはモヤモヤとした何かが渦巻いており、それは何かと考え込んでいたが、ふと部屋の入り口の前に佇んでいた修治が声をかけた。
「あの爺さんから何か聞いたのか?表情が暗いぞ」
修治のいつもの仏頂面にはどこか不安の色が滲んでいる。
「いや。大した事じゃないんだ……けど、どこか引っかかっちゃって」
心奏がそう答えると、それまで黙っていた羽音が口を開いた。
「あの爺さん、オレ達の何かを知ってたんだ。それが何かは分からねぇし、オレ達が知っていい事なのかも分からねぇ…」
それに続いて響彩も、先程まで着ていた服を畳みながら言う。
「でも、私達に教えてくれないって事は、自分達で見つけなくちゃいけない事か、知ってはいけない事の二択だと思う…」
響彩の言葉を最後に、部屋の中に沈黙が流れた。
「大丈夫だよ。きっと」
その沈黙を破ったのは、他でもない心奏の何気ない一言だった。
「あぁ」
「そうね」
羽音と響彩も心奏の言葉に同意を示し、畳んだ服を纏めて四人は部屋を後にしたのだった。




