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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 百良
第二幕『舞台のキセキ』
56/150

アイドルは疫病神。仲良しは腕枕

「それが……今の阿古音(あこね)ミント…」

 響彩(とあ)がそう言うと、ズルズルと鼻水をすする音に続き、吹っ切れたような声で続けた。

「バーチャルアイドルだった阿古音ミントは、バーチャルシンガーとして生まれ変わった。だから、だから私が推す事を辞めなくても大丈夫だって思った。もうトラウマは乗り越えたって…!でも!でも……まだ駄目だったみたい……」


「ミントちゃんのイベントで、以前の肩書きである()()()()()()()()()を私達は貰った…!それが私は、私はとても怖かったの……」


 響彩が顔を両手で覆い隠す。

 そしてこもった声のまま続けた。

「私が、私がまた疫病神になっちゃうんじゃないかって……」

 そう言って布団の上で丸まった響彩を、覆い被さるようにして心奏(しおん)が抱きしめた。

 響彩が驚き目を見開く。

「響彩は疫病神なんかじゃない。不幸が続いた事と響彩がアイドルを推していた事は関係ないんだ。ただ、時期が被ってしまっただけ……。響彩は悪くなんかない」

 心奏の言葉に響彩は、心奏の胸に埋まり静かに泣いた。

 羽音(ねお)はそれまで黙っていたが、ゴロゴロと布団の上を転がり響彩の側まで来ると、響彩を背中から抱きしめた。

「オレらは、お前の前から絶対にいなくなったりしねぇ。ミントを推す事を辞めなくたっていい、トラウマを乗り越えなくたっていい。ただ、オレらに隠して辛い事を抱え込むな。オレに言えた事じゃねぇが……」

 羽音の言葉に響彩は泣きながら「うん、うん」と頷いた。

 三人は暫くの間抱きしめあっており、そのまま眠ってしまったようだった。


 心奏が目を覚ました頃には、太陽が上り外で雀がチュンチュンと鳴いていた。

 三人は真ん中の布団の上で、響彩を中心に響彩を護るように寄り添っていた。

 心奏は起き上がろうとしたが、心奏の左腕が響彩の頭の下にあり動けなかった。

 よく見ると、心奏の左腕の上辺りに羽音の右腕もあり、響彩は二人の腕を枕にして寝ているようだった。

 心奏は起き上がる事を諦め、仕方なく右腕だけで身体を伸ばした。

「起きたか」

 声のした方を見ると、修治(しゅうじ)が椅子に座り珈琲をすすっていた。

「センセイ、帰って来てたんだね」

 心奏は隣で眠る二人を起こさぬようにボソボソとした声で言った。

「朝には帰ると言っただろう。帰って来たら仲良く縮こまって寝てるもんだから驚いた。仲直り出来たようで良かったがな」

 修治の言葉にキョトンとした様子の心奏が首を傾げた。

「なんで?」

「昨日、晩飯のときに何処かギクシャクしてたろ?何かあったんだと思ってたんだ」

 心奏の問いに関して、修治はさも当たり前の事のように答えた。

 そしてまた珈琲をすすり、脚を組んだ。

「ふわぁ……」

 ふと、羽音が大きなあくびをして身体を伸ばした。

 そして修治が視界に入ったのか、そのまま「センセイ、帰ってたのか」と先程聞いたような言葉を羽音は発した。

 羽音も腕が枕にされていることに気づき、はぁとため息をつくと、起き上がるため振り子の役割にしようと上に上げていた脚をゆっくり降ろした。

「おはよう。羽音」

「おう。おはよう、心奏」

 心奏が羽音に声をかけると、羽音も返事をした。

 その二人の中心で、二人の腕を枕に未だすぅすぅと寝息をたてて響彩が眠っていた。

「泣き疲れたんだね」

「だな」

 その後、心奏と羽音の腕が痺れるまで腕枕は続くのだった。

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