頼りなくない
「ひっく、うぅ……」
ゆなと別れたあと、心奏の家の前で響彩が心奏の胸に埋まりながら泣いていた。
「思い出しちゃったんだね。大丈夫、大丈夫」
心奏は響彩を抱きしめるような形で、響彩の背中をさする。
「僕らは急に居なくなったりしないよ。明日休みだし、不安なら今日は僕ん家に泊まってく?センセイには僕から言ってあげるし、着替えが必要なら一緒に家に取りに行ってあげるから」
心奏の言葉に響彩は静かにコクンと頷き、鞄からハンカチを取り出すと目元の涙を拭った。
「心奏。響彩が泊まんなら、オレも泊まっていいか?」
「いいよ。センセイに二人の事伝えて来るから待ってて。羽音、その間響彩の事お願い出来る?」
羽音の問いに心奏が返答し、心奏の問いに羽音は頷いた。
「響彩、今からセンセイに伝えて来るから待ってて。そのあと、一緒に着替え取りに響彩の家行こう?ね?」
心奏がそう言うと響彩はまたコクンと頷き、心奏から離れ羽音の服の裾を掴んだ。
羽音はびっくりしたのか、一瞬ビクッと身体を震わせた。
「それじゃ、行ってくる」
心奏はそう言って自身の家の扉を開けて中に入っていった。
「大丈夫か?」
羽音の言葉に響彩は何の反応も示さず、心奏が入っていった扉を静かに見つめている。
「オレらがつるむようになって、もう九年。お前はあの頃から心奏にベッタリだった。まだオレには頼れねぇか……?」
続いた羽音の言葉に少し間は空いたが、響彩が首を横に振って反応した。
「じゃあ、なん……」
「おまたせ!」
羽音の言葉を遮るようにガチャと扉が開き心奏が出てきた。
心奏が玄関前の小さな階段をトントンと降りると、すかさず響彩が心奏の腕に抱きついた。
「おぉっと」
響彩の行動に心奏がバランスを崩しかけ、響彩を支えながら、その場で何度か足踏みをするようにして身体を支えた。
「何かあったの?」
「さぁな」
心奏の問いに羽音は頭を掻きながら答えた。
首を傾げながらも心奏は響彩に視線を向ける。
「じゃあ、着替えを取りに行こうか?」
心奏がそう言うと三人は歩き出した。
心奏とすでに荷物を取って来た羽音が響彩の家の前で立ち尽くしていた。
「なぁ、心奏。オレって頼りないか?」
ふと羽音が心奏に向かって問いかけた。
「いや?そんな事ないと思うよ。どうしてそう思うの?」
心奏が不思議そうに羽音を見つめると、羽音は頭を掻き深呼吸をすると「大した事じゃないが…」と言って続けた。
「響彩は不安だったり辛かったりしたとき、オレを頼った試しがない。絶対に心奏、お前を頼るだろ?だから、オレはそんな頼りがいがないのかってな」
羽音の言葉を静かに聞いていた心奏だったが、ふと羽音の顔を両手で包み込み自身の顔の近くまで引き寄せた。
心奏の突拍子のない行動に羽音は目を丸くした。
「そんなに思い詰めないでよ。君らしくない。響彩にとっては最初に自分を助けてくれた存在が僕だから、そういった事があったから最初に僕を頼るだけだよ」
心奏がムニムニと羽音の頬を撫で回し、微笑みかけた。
「羽音が頼りないんじゃない、羽音を信用してない訳じゃない。ただ、前まで羽音も家族の事で揉めてたから言いにくかったんじゃないかな?少なくとも、響彩に植え付けられたモノの中に家族も関係してるから……」
心奏がそう言って羽音を解放すると、羽音は心奏から視線をそらした。
「だったらいいけどな……」
「きっとそうだよ」
心奏の屈託のない笑みは、辺りを包み込んでいく夜の闇に負けないほど美しいのだった。




