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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
5/150

甘い

「また怒られちまった。治さなきゃな、この癖」

 昼休みになり、屋上でそれぞれ昼食をとっている時に羽音(ねお)が言う。

「治らないでしょ」

「なんだと!?治るかもしんねぇだろ!」

 羽音が響彩(とあ)に向かって叫ぶと、チラッと心奏(しおん)の弁当箱に目を向けると心奏の卵焼きを指で掴んだ。

「いただき〜♪」

「あ、それは…」

 心奏の言葉も虚しく、羽音は卵焼きを口に入れたが羽音が顔を歪ませた。

「なんだこれ、(あめ)ぇ。甘すぎる」

「だから、止めようとしたのに……忘れたかい?僕ん家の卵焼きは甘いんだよ。羽音ん家のと違って」

「そうだった。心奏ん家は味付けが全体的に甘ぇんだった」

 その二人の様子に響彩が口元を隠し、笑いを堪えている。

「何笑ってんだよ!!見せもんじゃねぇぞ!」

 その言葉に心奏も笑い出した。そして、そんな心奏を見て二人も笑う。

「はぁ、笑った笑った。そろそろ教室に戻ろうぜ」

 その羽音の言葉に心奏と響彩は頷くと、ささっと片付けを済ませ教室に戻っていくのだった。



 その後は特に変わった様子もなく、心奏達は家路についていた。

 並んで歩く三人の影が長く伸びている。

「演劇の詳しい内容は、またメッセージを送るよ」

 心奏が二人を交互に見つめた。

 その言葉に、羽音と響彩は心奏の方を見ながら頷く。

「あっ、そういや今から時間あるか?」

 羽音がふと振り返る。

「特に予定はないよ」

 心奏の言葉に響彩も「うん」と首を縦に振る。

 三人でその場に立ち止まると、羽音が横に伸びる道を指差した。

「なら、ちょっと寄りたい所あんだよ。行こうぜ」

 羽音を先頭に細道を暫く進むと”ビフレスト”と看板のかかったスイーツ店へ着いた。

「「スイーツ専門店?」」

 心奏と響彩が同時に尋ねると、羽音が頷きウインクをすると扉を押して開ける。

 店員と思わしき女性が「いらっしゃいませ」と心奏達を歓迎した。

「すんません。ブルーベリータルト一つ、とシュークリー厶三つください」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 店員の女性がショーケースからスイーツを取り出していく。

「そんなに食べるの?お腹壊すわよ」

「全部オレが食う訳ねぇだろ。心奏の退院祝いと、帰りながらお前らと食う分だよ」

 羽音がため息をつき、呆れながら響彩の方へ振り返った。

「えっ、僕が貰っていいの?やった!」

 二人が睨み合いをしている中、心奏は一人小さな子どものように喜んだ。

 その様子に羽音と響彩はフッと微笑んでいる。

「おまたせしました。こちらお品物になります」

「「「ありがとうございます」」」

 三人が同時にそう言うと、羽音が支払いを済ませ店を後にした。


 店を出ると羽音が二人にシュークリームを配り、自分もシュークリームを取ると、心奏に紙袋を渡した。

「ほれ、退院祝いな」

「ありがとう。大事に食べるよ」

 心奏はそれを受け取ると、今にも弾けそうなほどの笑顔を見せた。

「うまっ!これ甘さ控えめでうまいな」

「確かに程よい甘さよね。美味しい」

 羽音と響彩はシュークリームを頬張りながら感想を言う。

「楽しいね。ずっと、このままでいたいな…」

 心奏の元気のない声に、二人はさも当たり前かのように心奏の顔を覗き込む。

「当たり前だ。オレ達はいつまでも一緒だろ」

「離れ離れになっても、こうしてまた集まったじゃない。だから、これからもきっと大丈夫よ」

 その二人の言葉に、心奏は嬉しくも不安を含んだ笑顔で頷いた。

「絶対、諦めない……」

 ポツリと呟いた心奏の言葉は誰にも届かぬまま、夕闇に溶けていった。

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