客観視
「大賞を取るったって、そんな簡単に取れるもんか?歌うまだから、歌が上手くなければ意味がねぇぞ」
羽音が不機嫌そうな表情で言うと、響彩は心奏の肩を後ろから持つとニヤッと笑った。
「私達には他の人達が出来ないような事が出来るじゃない」
響彩の言葉に、心奏が気づいたように手のひらに拳をポンッと打ち付ける。
「演劇?」
心奏の呟きに、響彩は「ご名答」と微笑む。
「歌だけじゃ大賞が狙えないなら、私達の得意を混ぜればいいじゃない」
響彩の言葉に、羽音は呆れたようにため息をついたが、頭を掻くと響彩に向きなおった。
「んで、計画は?」
羽音の言葉にふふっと響彩が微笑み、ゆなに向きなおった。
「ここに良いプロデューサーがいるじゃない」
「ボクですか!?」
いきなりの事に自身を指差し固まるゆなと、ゆなを見つめる心奏と羽音、満足そうに微笑む響彩。
「そうだな。一応、ゆなもオレらのスタッフだし」
羽音がそう言うと、ゆなが手と頭を左右に激しく振りながら動揺した。
「いやいやいやいや!ボク、スタッフって言ってもプロデュースなんてやった事ないですよね!?グッズ関係しか関わった事ないですよね!?」
そんなゆなの肩に、羽音と響彩が左右それぞれに手を置いた。
「大丈夫だ」
「大丈夫よ」
羽音と響彩がそう口を揃えて言うと、ゆなは泣きそうな顔で心奏に助けを求めるかのように視線を合わせた。
心奏は困ったように微笑んだが、口元に手を当てて言った。
「大丈夫だってさ」
「って、ほとんど全部先輩達で終わらせちゃったじゃないですか!」
ステージ裏の小さな個室で自分達の出番の前にステージの打ち合わせをしている際、ゆなが三人に向かって言った。
その言葉に三人はゆなの方を見ると、互いに顔を見合わせて微笑んだ。
「ゆなくん。演者が出来ない事って何だと思う?」
心奏の問いに、腕を組み困ったように考え込んでいたゆなが渋い顔をした。
「先輩達みたいな人なら何でも出来るんじゃないですか?」
ゆなの答えに心奏は首を横に振る。
そして、答えを言おうと口を開いたとき、羽音が隣から言葉を遮った。
「客観視だ」
「客観視?って誰にでも出来るじゃないですか!ボクじゃなく先輩達でも」
羽音の意外な言葉にゆなは反論した。
「違う。演者側の常識と知識を持ってるオレらは、初めて見る客と同じ見方は出来ねぇ。出来るのは、せいぜい客観視もどきだ」
羽音の言葉に、ゆなは理解が出来ないと言うように首を傾げた。
その様子を見て、黙って話を聞いていた響彩が口を開く。
「要は初めて受ける授業と、予習して受ける授業みたいな感じよ。初めてはどこまで行っても初めてだけど、予習していれば、初めてと同じ気持ちで授業を受ける事はまず出来ない……」
「だから、僕達が自分で客観視したとしても、それはお客さんが見て感じるものとはかけ離れているんだよ」
響彩の言葉に付け加えるようにして、心奏は言うとニコッと微笑んだ。
「だから、プロデュースが必要なんだ」
力強く発せられた心奏の言葉に、羽音と響彩は頷く。
そして、ゆなは心奏を静かに見つめていた。
「もう本番まで時間はないけど、最後のチェックをお客さん目線でするのは君だ。急ぎだろうと半端なものは見せられないからね」
心奏の優しげな言葉に、ゆなは頷くと「ボク、頑張ります!」と力強く応えたのだった。




