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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 百良
第二幕『舞台のキセキ』
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夢のあと

 帰りの車の中で修治(しゅうじ)はルームミラーで後部座席を確認し、そのまま視線を助手席へ移し、また前へと向き直った。

 助手席では心奏(しおん)が、後部座席では羽音(ねお)響彩(とあ)が少し俯いたまま、すぅすぅと寝息をたてながら眠っている。

「寝たふりは感心しないな……」

 修治の一言に後部座席に座っていた一人が顔を上げた。

 その人物は眉をひそめ、不機嫌そうに修治を少し睨んだ。

「別に周りに合わせなくてもいいだろう。せっかくだ。俺の話を聞いてくれ」

 後部座席の人物はムスッとしていたが、はぁとため息をつくとコクンと頷いた。

「心奏の父親の話だ。あいつは全くと言っていいほど心奏に関心がない。心奏が生まれる前までとは別人なほどにな」

 修治が前を向いたまま、苦虫を噛み潰したように表情を曇らせた。

 だが、すぐに優しく微笑むように目を細める。

「心奏はあの二人の良い所だけを受け継いで生まれたようなものだ。病気以外はな。だからこそ、心奏をここまで毛嫌いする理由が分からんのだ……」

 修治はチラッと心奏の顔を見ると、ルームミラーに視線を移した。

 すると、後部座席の人物と目が合った。

 後部座席の人物が照れ臭そうに視線を逸らすと、修治がフッと笑う。

「そういえば、お前の家も複雑だったな。急にこんな話をして悪かった」

「そんな事ない……」

 修治の言葉に後部座席の人物はボソッとそう答えると、窓の外の景色に目を向けた。

 またも修治がフッと笑い、車の運転に集中するのだった。


「おい。お前ら、着いたぞ」

 身体を揺すられ、かけられた修治の声で心奏達は目を覚ました。

「随分とよく眠っていたな」

 シートベルトを外しながら声をかける修治を他所に、心奏は寝ぼけ眼でぼーっと外を見つめている。

 後部座席では伸びをするため腕を伸ばし天井に手をぶつけ「痛っ」と言う羽音と、隣で大きくあくびをする響彩がそれぞれ修治の言葉を聞いていた。

「早く車から降りろよ。置いていくぞ」

 修治の言葉に心奏達三人がフワフワとしたままシートベルトを外し、車から降りた。

「今日はありがとうございました。心奏、また明日学校でね」

 ふわぁと大きなあくびをする羽音の隣で、響彩が修治と心奏に一声かけた。

 そして心奏に手を振り、羽音の背中を押しながら家に向かって歩き出した。

「またね〜」

 まだ夢見心地の心奏がフワフワと手を振り返す。

 その様子を見ながら修治が、家の鍵を開け心奏を呼ぶ。

「俺達も家に入るぞ。今日は俺もここに泊まるから」

「わかった〜」

 心奏がヘラヘラと笑いながら歩く姿に、はぁ…と修治はため息をつき心奏が家に入るのを、家の扉を支えながら見送る。

 修治が玄関の扉を閉め、リビングに行くとカーテンの隙間から景色を見ていた心奏が修治の方に向き直り、もう暗い部屋の中で視線を修治に合わせた。

 目が合う。暗い部屋の中でそれだけが分かる。

「センセイ……」

 心奏が口を開く。

 修治は電気を点けるのも忘れて、心奏の次の言葉を待っていた。

「僕、やりたい事が今日一つ叶ったんだ。他にもまだまだやりたい事が沢山たっくさんある。ねぇ、センセイ」

 心奏が視線を下に落とす。

「また、また僕のやりたい事に付き合ってくれる?」

 心奏は哀しそうに笑っていた。

 その様子を見て、修治は何も言えなかった。ただ、静かに優しく微笑みながら頷いた。

 まだ暗い部屋の中、二人はそのまま立ち尽くしていた。

 部屋の中に電気が灯るのは、それから暫く経った後であることをこの時は誰も知らない。

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