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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
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楽屋での騒動

 羽音(ねお)のヴァイオリンで演奏を始めた時。

 客席に座っていた音晴(おとはる)は羽音が奏でる音色に聞き覚えがあり、その演奏に釘付けになった。

 あの演奏会で最後に演奏した曲。その名も――。


――ヨハネス・ブラームス作曲『ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78《雨の歌》』


 その事実に気がついたとき、音晴の目からは涙が流れていた。

「あの日よりもずっと……」

 羽音が静かに弦を降ろし、演奏を終わらせた。

「ずっと美しい演奏じゃないか…」

 そして、演劇が終わるまで音晴はどこか上の空で、閉じられた幕の前に心奏(しおん)達が整列し、一斉に頭を下げた時、音晴は自分の意思で拍手をした。

「「「ありがとうございました‼」」」

 心奏達がそう叫ぶ時も、その後心奏達が退場した後も音晴は拍手をする手を止める事はなかった。




「終わった〜‼」

 羽音がそう叫ぶと、心奏が羽音の肩に手をかけた。

「お疲れ様、すごい演奏だったよ」

 心奏の言葉に羽音は「だろ?」とニカッと笑った。

「はぁ…あの体制でずっと力抜いてるのも、羽音に抱き寄せられるのも体力使ったんだけど。明日は筋肉痛かしらね…」

 その時、お手洗いから戻った響彩(とあ)が楽屋の扉を開けながら呟いた。

 響彩に気付いた心奏は椅子に座る羽音を他所に、響彩に微笑みかけた。

「響彩もお疲れ様。ゆっくり休んでね」

 心奏の言葉に響彩も「そうさせてもらうわ」と笑った。

 その和やかな空気を薙ぎ払うように次の瞬間、廊下からドタドタという足音が聞こえた。

 三人は目を丸くして扉の方を凝視していたが、響彩が振り返り顔をしかめた。

「何かあったの?」

 響彩の問いに、心奏も羽音も「さあ?」と言って肩を竦めると同時に廊下に叫び声が響いた。

「ちょっと!ちょっと、待ってください!そっちは関係者以外立入禁止です!」

 少年の声と共に楽屋の扉がバンッと開かれた。


 心奏達が驚いてパッとまた扉に目を移すと、そこには顔を真っ赤にした音晴が息を切らしながら立っていた。

 「は?」と羽音。「ん?」と心奏。「え?」と響彩が声を漏らしていると、音晴がズカズカと楽屋の中に入りそして羽音の手を強く握った。

「お前、いつの間にあんなに成長していたんだ⁉私が思っていた以上の実力だった!」

 そう言うと次は心奏、次は響彩の手を強く握る。

「君達の演技も最高だった!羽音が足を引っ張る分を充分にカバーしていた!それに物語もよく作り込まれていたよ!」

 音晴の変わりように羽音達が唖然としていると、ペールアイリスの髪の少年が楽屋に息を切らしながら飛び込んできた。

「ここは心奏先輩達の楽屋です!関係者以外はお引き取りお願いします!」

 少年はそう叫びながら心奏達から音晴を引き離すと楽屋から連れて行こうとした。

「ちょ、ちょっと待て。ゆな!そいつはオレの親父だ!」

 ゆなと呼ばれた少年は「へ?」というと、状況を理解したのか慌てて羽音と音晴に向かって頭を下げた。

「す、す、すみません!そんな事とは知らずボク早とちりしてしまって。ご、ごゆっくりどうぞ…」

 少年がそう言いながら楽屋の扉を静かに閉める。


 扉が閉じると、羽音が頭を掻きながらはぁとため息を漏らした。

「んで?なんで親父がここ来て、感動して、感想言ってんの?」

 羽音の問いに、音晴は落ち着きを取り戻すように咳払いをした。

「きみ達の演劇を軽視しすぎていた。私がきみ達の演劇を貶してしまった事をどうか許してほしい。いや、許せとは失礼だな。では、改めて…」

 そう言う音晴の言葉を固唾を飲んで待っていると意外な言葉が音晴から飛び出したのだった。

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