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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
35/150

演劇『ヒガンの雨の歌(2)』

響彩(とあ)「あれ?なんで私、こんな所にいるんだろう?」

 ヒガンが隠れた後、アリムは目を覚ましました。

響彩「あっ、早く村に帰らないと…!」


 アリムはそのまま村の方へ走っていきました。

 その一方でヒガンはこれから下されるであろう罰を考え、身体を震わせていました。

 だが、あろう事かヒガンが考えていたように、ヒガンへ罰は下りませんでした。

 その代わり罰は、死神の仕事をサボらせる原因と思われたアリムに下りました。


羽音(ねお)「なぜですか⁉仕事をやらなかったのは僕がただサボっただけで、アリムには関係ないはずです!なのになんで…?」


 ヒガンはその判決に納得出来ず、死神協会へ訴えていました。

ロボット「そう言われましても、証言があったんですよ。彼女がやったという証言が…」

 死神協会の職員がそう言うとヒガンの頭にある人物が浮かびました。

 そうスノードです。

 だが、ヒガンはもうスノードに構う暇など残されていませんでした。

 なぜならアリムへ罰が下るのは今日だったからです。

 ヒガンは走りました。件の場所まで。

 しかし、木陰に来たときにはもう遅かったのです。

 アリムは草原の真ん中で倒れており、傍らでは魂を狩り終わったであろう死神協会の職員が立っていました。

 その死神は目的を達しヒガンとは逆方向へ歩いていきました。


羽音「ア、アリム…?」


 ヒガンがそう問いかけても、アリムはびくともしませんでした。

 そりゃそうです。魂が抜けて(死んでしまって)いるのですから。


羽音「アリム…アリム……アリム…!」


 ヒガンはそう呼びながらアリムに駆け寄っていきました。

 そしてアリムの傍に跪くと、アリムを抱き上げます。

 とても白く、冷たいアリムの頬にヒガンは触れました。


羽音「なんで、なんで君が…」


 ヒガンの問いに答えが返ってくる事はありません。

 だが、ヒガンはどれだけ悲しくとも泣くことが出来ないのです。

 死神ですから――。


羽音「君の歌は僕を救ってくれたんだ。真っ黒な僕の心に光を、魂を与えてくれた…」

 ヒガンは自身の胸に手を当てアリムに語りかけます。

羽音「死神である僕を、君は…」

 ヒガンの跪いている草が段々色を失っていきました。

羽音「救ってくれたのに!」

 ヒガンを中心に草原から色が失われ、草木が枯れていきました。


 これも死神の能力です。

羽音「せめて…」

 ヒガンはアリムの身体を元に戻すと、マントの中からヴァイオリンを取り出しました。

羽音「せめて君の死が清く、安らかであるように…」

 ヒガンがヴァイオリンに弦を乗せます。

 そして、次の瞬間辺りにヴァイオリンの音色が響きました。

 ヴァイオリンが響いた空に雨雲が広がっていきます。


羽音「僕には、これくらいしか出来ないけれど…」


 空から雨が降り、草原であった場所を濡らしていきました。

 濡れた場所から芽が出て、あっという間にヒガンの周りは元の草原に戻っていました。


羽音「どうか…安らかに……」


 ヒガンの目元に雨粒が当たり、まるで涙のように頬を伝っていきます。

 そして、ヒガンはもう一度アリムの元に跪くと、アリムの手を両手で包み込み、自身の額に当てました。


羽音「僕も――人間だったら良かったのにな……」


 ヒガンはそう言いながらアリムの手を放し、自身の首に鎌を当て、思いっきり切り落としたのでした。

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