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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
33/150

笑って、嗤って、微笑って、嘲笑って

 ――本番前日。

「っしゃあ!これも聴けるようになったぜ」

 羽音(ねお)の元気な声が劇場内に響いた。

「ねぇ、五月蝿いんだけど…もうちょっと静かに出来ないわけ?」

 響彩(とあ)が動き回るロボットの中央で、台本を開いたまま羽音に嫌な顔をする。

 その二人の言葉で舞台裏からピョコッと心奏(しおん)が顔を覗かせた。

「羽音のクラシック嫌いは、やっぱり過去のトラウマからみたいだね」

 心奏のふふっという微笑みに、羽音が頭を下げる。

「この前はすまん。そして……オレを助けてくれてありがとう」

 目を丸くしていた心奏と響彩を横目に、羽音が頭を上げると、頬をパンッと強く叩きやる気に満ちた表情を見せた。


「絶対成功させる。オレらは最強のチームだから」


 羽音の言葉に再度ふふっと笑った心奏はコクコク頷いた。

「良かった、良かった。そっちは上手くいってそうだね」

 そうして、心奏は錬金術をするかの如く、手元にあった機材を組み合わせていく。

 その言葉に響彩は「私はいってないけどね」と舞台裏を覗き込みながら、ツッコミを心奏に入れた。

「心奏!クラシックが雑音じゃねぇぞ!こんなに綺麗に聴こえんのは四歳以来だぞ!六歳のあの日には雑音だったからな!」

 羽音が響彩に乗りかかるようにして、心奏に話しかけた。

 手元には交響曲の流れる有線イヤホンを握り締めている。

 響彩は「ちょっと!重い!」と言っているが、羽音は全く気にしていない様子だった。

「そりゃ良かったよ。あの日から確実に成長していってるね。羽音」

 心奏が手元の機材を鎌のような形の物に変えるとそれを一振りしたり、コツコツと持ち手の所を床に打ち付けたりして強度を確認した。

 その様子を見て羽音が目を輝かせ心奏の元に駆け寄ると、心奏から鎌を受け取りブンブンと振り回している。

 ニコニコと羽音の様子を見ている心奏に、響彩はため息をつきながらも二人の様子を見守っていた。


「ところで、ヴァイオリンは順調?」

 心奏がふと思い出したかのように羽音に尋ねる。

「ん?あぁ、もう”()()()()”だぜ」

 鎌を振り回すのを止めると、羽音がニッと笑いながら答える。

 そして舞台に両手を上げ進むと、心奏達の方を振り返った。

「この劇場の響き方にもマッチしてるし、姉貴が選曲したやつも今回のシナリオにピッタリだしな」

 羽音が改めて劇場の客席を端から端まで見渡す。

 羽音の様子に響彩も舞台に進み客席を見渡すと、少し俯き様に口を開いた。

「なら、明日は大成功ね。楽しみだわ」

 響彩が胸に手を当て、目を瞑ると当日の想像をするように呟いた。


(わら)って、(わら)って、微笑(わら)って、嘲笑(わら)って…」


 心奏がそう言うと羽音と響彩が心奏の方を見た。

 心奏は客席をやる気に満ち溢れた表情で見ながら、舞台の端まで来るとスッと振り返り、羽音と響彩二人の顔を交互に見つめた。

「そういう人生だった。僕らは…さ。だから……」

 心奏がニコッと満面の笑みを浮かべる。


「だから、そういう世界を演劇にして、お客さんに届けていこう。少なくとも僕らは……ね」


 心奏の言葉に羽音と響彩は頷いた。

 羽音がもう一度頬をパンッと叩くと、グッと握った拳を上に突き上げ叫んだ。

「っしゃあ、明日は頑張んぞ!」

 羽音のその言葉を合図に、心奏と響彩が互いに顔を合わせ、微笑むと「オー!」と叫び、羽音と同じように拳を突き上げた。

 その後、練習そっちのけに三人の笑い声が劇場内に響いていたのだった。

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