羽音の本音
「…だから!邪魔すんじゃねぇよ、クソ親父‼」
その場にいた誰もが羽音の想像もしなかった言葉に目を見開いた。
それは音晴も同じだった。
「オレは昔っから周りに態度がでかい親父が嫌いだった!自分の演奏で拍手貰っても、それは全部オレを育てた親父に向いてるもんなんだって思った!そんな毎日で段々好きだった音楽聴くのもツラくなって…そんなプレッシャーに耐えれねぇ、才能ないオレは音楽の世界に身を置く事が苦しかったし、ツラかった‼」
羽音は喉に詰まっていたものを全て吐き出すかのように、音晴に向けて叫んでいた。
音晴の視線は先程言い合っていた心奏でも響彩でもなく、羽音に釘付けになっていた。
「でも……オレに表現する楽しさ、聞いて見て評価してもらう嬉しさを教えてくれた親父には…感謝してる。今のオレは親父がいたから出来てるって分かってっから…だから……」
羽音が俯き様にそう言うと、今まで驚きながらも静かに言葉を聞いていた音晴がハハッと微かに笑った。
「やめた」
音晴がぼそっと口にした言葉に、羽音達3人は驚いて音晴の方を見た。
「やる気が無いお前や茜音を継がせても意味がない。その甘ったれた考えのまま、楽しいだけの事をしていろ」
そう言うと音晴はくるっと公園の出口の方へ足を向けた。
だが、その声はどこか胸のつかえがおり、清々しいようなトーンだった。
「あ、あの…!」
帰ろうとする音晴を響彩は呼び止めると、明るい口調で話しかけた。
「もし良ければ、ハロウィンに行う演劇を見に来ていただけませんか?私達の演劇を貶されたままにしておくのは嫌なので」
響彩が笑いながらそう言うと、音晴は面倒臭そうにため息をつくと振り返って答えた。
「気が向いたら、な」
その言葉からは先程のような怒りも悲しみも感じ取れない、とても優しい様子が伺える。
心奏と響彩はその言葉を言った音晴に頭を下げると互いに微笑みあった。
街灯に照らされた音晴の後ろ姿を、三人は見えなくなるまで見つめていた。
音晴が完全に見えなくなった後、心奏と響彩、羽音は他愛のない世間話をしていた。
そして夜も更けてきた頃、「お開きにしようか」と心奏が口を開いた。
「僕らはもう帰るけど、羽音はどうする?僕ん家泊まる?」
心奏が隣に立つ羽音の顔を覗き込みながら言うと、羽音は首を横に振った。
「いや、オレも帰るわ。姉貴置いて来ちまったし」
そう言う羽音の表情はいくらか明るいものになっていた。
「絶対怒られるよなぁ。あ〜、やっぱ泊まろうかな……」
「そういうとこよ。しっかり茜音さんに謝っときなさい」
羽音がククッと笑うと、響彩が呆れたように微笑んだ。
そうして、三人が帰る雰囲気になっていると、心奏が「あっ‼」と口に出した。
「そういえば変更点!忘れてた……」
その慌てふためく心奏の様子に、響彩と羽音が顔を合わせて微笑みあった。
「別に明日でいいんじゃない?今日はもう遅いし」
響彩がそう口にすると「間違いねぇ」と羽音が笑う。
目を丸くしていた心奏もふっと笑った。
「そうだね……」
心奏がそう言うと、羽音が家の方向に向かって歩き出す。
「んじゃ、帰ろうぜ」
羽音の言葉に心奏と響彩はコクンと頷くと、羽音の両隣に並んで歩いた。
そうして三人は笑いながら帰路につくのだった。




