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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
31/150

飼い殺し

「……ッ!」

 羽音(ねお)から声とも息とも思えるような音が出た。

 響彩(とあ)の隣に立っていたのは羽音の父、音晴(おとはる)だった。

 心奏(しおん)の服を掴む羽音の手に力が入る。

「羽音」

 耳に残るような低音で音晴が言う。

 そして、そのまま羽音に向かって歩き出した。

「待ってもらえませんか…?」

 心奏が音晴と向き合い、片腕を羽音を庇うようにして上げた。

「なんだ」

 音晴が歩みを止め、心奏の方を見る。

 公園に冷たいものが走った。


「なぜ、羽音に音楽を継がせようとするんです?僕から言うのもなんですが、羽音はそれを嫌がっているように見えますが?」

 心奏の言葉に音晴が眉をピクッと動かす。

 そして、音晴が至って冷静を装うように言葉を紡いだ。

「きみには羽音が嫌がっているように見えるのか?」

「ええ。少なくとも僕と彼女にはそう見えます」

 心奏が響彩に目線を送ると、音晴も響彩の方を振り返った。

 響彩は一見真剣な表情を浮かべていたが、足は少し震えている。

「羽音には…才能があるんだ。音楽の才能がね…きみ達もそれは分かるだろう」

 音晴の問いに心奏は戸惑いもなく頷く。

 そして「なら――」と続ける音晴の言葉を遮った。


「でも羽音が望まない事をさせても、羽音のためにはならないと思います。…僕は昔から身体が弱くて、好きな事もそう簡単に出来ませんでした。でも今は羽音と響彩と演劇が出来ている今は、とても楽しいんです。僕らだけでなく、演劇を見ている人達も皆楽しそうで……僕らは今の生活に満足しているんです。だから――」


 心奏が淡々としかし温かい声で語る言葉を、音晴が冷たい声と表情で遮った。

「だから、なんだ。きみ達はそれでお金が貰えるほど価値のある表現が出来ていると?私が叩き直すんだ。羽音のその甘ったれた考えも、才能もな」

 音晴のその生気を持っていないような声に、心奏は思わず顔をひそめた。

 響彩も眉間にしわを寄せている。

「はい…」

 次の瞬間、羽音が手を上げ発言権を求めた。

 心奏がどうぞと声をかけると、羽音が涙でぐしゃぐしゃになった顔を腕で拭うと、キッと決意を固めたような表情で音晴を見つめた。

「親父はオレが音楽の道でやっていけるって本当に思ってんのか?」

「お前が折れなければな」

 その羽音の言葉に音晴はそう淡々と答えた。

「じゃあ、折れたらどうすんだよ。思い悩んだり、才能が伸びなかったりしたとき、責任が取れんのかよ?」

 はぁとため息をつくと音晴は羽音を睨んだ。

「生活面は工面してやる…」

 その言葉に羽音が怒りを音晴へぶつけようとしたが、心奏が手でその行動を制止した。


「それって飼い殺しじゃないですか。羽音には好きな事を好きなようにやってほしいし、羽音が望まない、笑っていられない事を強いるなら……僕はどんな事をしてでも止めます」


 心奏の力強い言葉に音晴は一瞬目を丸くしたが、フッと嘲笑って心奏の方に向き直った。

「まるできみが親のような口ぶりだねぇ。随分と羽音が懐いてるみたいだ…」

 その言葉に心奏が口を開こうとすると、羽音がそれを手で遮り心奏の前に立った。

「そうだ、()()()()だよ。だから…」

 羽音はそう言うと深呼吸をした。

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