オレは……
辺りも暗くなり、街灯なしでは見えないような歩道を羽音は過去の事を思い出しながら歩いていた。
行く宛もなかった羽音は、いつも演劇の練習をしている公園まで来た。
誰もいない公園に入りブランコに腰を降ろす。
「はぁ…何やってんだ、オレ……」
羽音はため息をつくと俯いた。
だが羽音がいくら哀しいと思っても羽音の瞳から涙が流れる事はない。
「羽音?」
ふと聞こえた聞き慣れた声に、羽音は驚いて声の方を向く。
そこには心奏と響彩が目を丸くして立っていた。
「お前ら、なんでこんな所居んだよ?」
羽音が驚きながらもそう問いかけると、心奏と響彩が互いに顔を合わせ、羽音の元へ歩いてきた。
響彩がムスっとした表情で、羽音の胸に人差し指を突き立てる。
「それはこっちのセリフよ。アンタこそなんでここに居るのよ?」
まあまあと心奏が響彩をなだめると、響彩は「ふんっ」と腕を組んだ。
「僕らは帰り別れた後、図書館でたまたま会ってね。演劇について少し話してたんだよ。それで変更点が出てきたから羽音に伝えにいこうと思って、羽音の家に向かっていたところだよ」
「そういうのは早い方がいいと思ってね」
心奏が微笑みながらも淡々と羽音に告げると、響彩が補足した。
羽音はその言葉を俯き静かに聞いている。
「それで、羽音はどうしてここに居るの?」
響彩がそう聞くと、羽音は苦虫を潰したように表情が曇った。
「もしかして、羽音、お父さんと何かあった?」
心奏の思わぬ言葉に、羽音は目を丸くする。
羽音は縋るような、泣き出しそうな瞳を心奏に向けた。
「なんで…」
羽音が力無くその言葉を口にすると、心奏は困ったような目で羽音を見た。
「今までだって何度か注意されたって聞いてたし。この前茜音さんに会った時、なんだか雰囲気が変わってたから、そうかなって………」
心奏がそう言うと羽音は歯を食いしばるようにして、また俯いた。
「そうだよ。親父が…姉貴が継がねぇならオレが継げってさ。意味分かんねぇよな――」
その羽音の言葉を遮るようにして、心奏が羽音に抱きついた。
「お、おい。なんだよ…」
羽音がそのまま戸惑っていると心奏が静かに呟いた。
「僕らは最強のチーム……」
心奏の言葉に羽音は思わず自身に抱きついている心奏を見た。
「君がそう言ったんじゃないか。僕の願いを聞いてさ。なら…今度は僕が叶える番だよ」
心奏は抱きついたまま目を瞑った。
そして、静かに語りかけるように呟く。
「羽音。人間はさ辛い事があった後は普通、泣くものだよ…?」
心奏の言葉に羽音の瞳から涙が溢れた。
先程いくら哀しくても出なかった涙が心奏に諭された瞬間溢れ出た。
「オレ…オレは……」
心奏の服に顔を埋めるようにして羽音が言葉を溢す。
その言葉を心奏は静かに頷きながら聞いていた。
「オレは、お前らと演劇をやってたい!あんな音楽を奏でる機械になんて戻りたくねぇ!」
羽音が発する言葉は、心をそのまま吐き出しているかのように、羽音の願いが詰まっていた。
「オレは…オレは……!」
心奏は羽音の言葉を聞きながら、響彩に目配せをした。
響彩は解ったというように頷くと、公園を走って飛び出していった。
その間も羽音はずっと嗚咽を繰り返しながらも、胸にしまっていた言葉を吐き出したのだった。
「心奏…」
響彩が息を切らしながら公園に戻ってきていた。
心奏と羽音は、響彩の声で顔を上げた。




