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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
3/150

学校の始まり

 朝日がカーテンの隙間から溢れ出ている。

 心奏(しおん)は椅子にちょこんと座り、朝食の目玉焼きが乗ったトーストをほおばっていた。

 今日は自宅療養期間に入ってから一週間が経ち、退院後初めて学校へ行く日であった。

――楽しみだなぁ。

 心奏がうきうきとトーストを口に運びながら、壁にかかっていた時計を見た。

 時計の針は七時を指そうとしている。

 それを見た瞬間、心奏は電気でも流されたかのように身体をビクッと震わせると、急いで残り少ないトーストを口に詰め込み始めた。


――ピンポーン――


 その音が家中に響き渡ると、ガクリと心奏は肩を落とした。

 待たせる訳にはいかなかった心奏は、最後の一口を口の中に押し込み、隣の椅子に置いてあった鞄をひったくるようにして取った。

「ふぁい!ひょっと待って!」

 リビングの扉を開け、閉めてからバタバタと廊下を突っ切り、慌てた様子で靴を履き、玄関のドアを勢い良く開けた。


「おいおい。初日から慌ただしいなぁ」

 家から飛び出してきた心奏に、呆れた様子で笑っている羽音(ねお)が声をかける。

 その言葉に心奏も口の中のものを飲み込むと、ハハッと笑い返した。

「約束の時間には余裕をもって準備してほしいんだけど?」

 羽音の隣で響彩(とあ)が困ったように笑っている。

 心奏は靴を正し、鞄を肩にかけ直すとフニャッと笑った。

「ごめん」


 心奏達三人は互いの家が近所のため、心奏が学校に行ける日には、学校から徒歩十分圏内である心奏の家に集まり登校している。

 三人が通っているのは、高嶺(たかみね)高校。略して高高(たかこう)。三年制の私立の共学校である。

 伝統的な校風だが単位制クラスや夜間クラスなどもあり、芸能活動をしている学生が多く在籍する学校でもある。


「じゃあ、行こっか!」

 心奏が懐かしさにふけるように、ニコニコとしながら歩道へ足を踏み出す。

 硬いコンクリートに靴がぶつかると、コツンッと軽やかな音が響いた。

 通学路を黙々と進んでいたとき、ふと響彩が口を開いた。

「学校で打ち合わせなんていつぶり?」

「二年上がってすぐくらいじゃねぇか?四月の後半からついこの間まで心奏が入院してたしな」

 羽音があまり興味なさそうに手に持ったロボットをいじっている。

 それを見た響彩が羽音のくるぶしを軽く蹴ると「痛っ」と羽音が声を上げた。

「そうだね。懐かしいなぁ」

 心奏はお日様のような眩しい笑顔で輝く太陽を、目を伏せながらも嬉しそうに見つめた。

 心奏達三人はフリーの劇団『神garu(シングル)』でロボットやアンドロイドを使った芸能活動をしており、今日はその打ち合わせをするために早めに登校していたのだ。


「んで、今回はどんな演劇にすんだ?」

 先程蹴られたことも忘れたかのように、羽音がケロッとした様子でロボットに最後のネジをはめながら心奏に言った。

「今回は喜劇って言われたしなぁ。しかも子供向けの分かりやすいもの。ん〜」

 心奏が困ったように顎に手を当て、目を細めて考えこんでいると、目の前に校門が見えてきた。

 そのまま校門の目の前まで行くと響彩と羽音がそれぞれ左右の門を開け始める。

「まぁ、今すぐ考えなくちゃいけないわけじゃないし、気長にいきましょ」

 響彩が両手で門を開け終わると、心奏に向き直った。

――ゆっくり、ゆっくり自分のペースで……

 心奏はそう頭の中で繰り返すと学校の敷地に一歩踏み出した。

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