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道化師に憧れた僕が自分の病を治す方法  作者: 舞木百良
第一幕『事実は演劇より奇なり』
28/150

お前なんて…

 ――数日後。

 羽音(ねお)は学校から下校し、演劇の練習もなかったため家へ帰って来ていた。

 家の扉を開けると、羽音の父親である音晴(おとはる)が玄関に仁王立ちしていた。

 羽音はその音晴を無視し、隣を通り過ぎようとする。

「羽音、待て」

 そんな羽音の腕を音晴が掴むと、羽音はその手を振り払い退けた。

 羽音の顔はとても不機嫌で嫌そうな表情だった。

 そしてそのままリビングへと歩いていく。

「羽音、待ちなさい!」

 リビングの扉を開け入ったとき、羽音はやっと振り返った。

「なんだよ――」

 次の瞬間、羽音の頬に痛みが走った。

 状況が分からず、羽音は目を見開き視線を音晴へと移す。

 音晴が平手打ちをしたのだった。


「は?」

 やっと捻り出した言葉はそんな単純なものだった。

 その羽音の言葉に音晴はもう一度手を振り上げた。

 だが振り降ろした手は羽音の頬に当たる前に、羽音によって受け止められた。

「……ッ…何すんだよ」

 羽音のその問いには答えず、音晴はじっと羽音を見ていたが、ハァとため息をつくと口を開いた。

「茜音が美術の道に進みたいと私に言ってきた。お前はそれを知っていたな?」

 音晴が静かに告げると羽音は俯きハハッと掠れた笑いを溢すと、そのまま音晴を睨んだ。

「だったらなんだよ?オレの事じゃねぇんだ、別に親父に言う必要性もねぇと思うが?なんでオレは叱られなきゃいけねぇんだよ。なぁ、親父?いや、お父様だっけか…?」

 羽音が憎しみを含んだように嘲笑うと、音晴は顔を真っ赤にし、もう一度手を振り上げた。


「お父様!なんで羽音に手をあげてるの⁉」

 だが、ちょうど階段の方から茜音(あかね)が声を上げた。

「お前には関係ない」

 音晴は冷たくその言葉を言い放つと、茜音は羽音との間に立ち音晴の方を向き、羽音を守るようにして両腕を上げた。

「姉弟なのに関係ないわけないでしょ⁉それにアタシの将来の事でこうなってるんでしょ⁉昨日はお父様良いって言ってくれたのに、なんで!」

 茜音のその言葉に音晴は面倒臭そうに、ハァとため息をつくと口を開く。

「お前が美術へと進むのであれば、うちを継ぐのは羽音だ。だから茜音お前には関係ない」

 そう言うと音晴は茜音を突き飛ばした。

「痛っ!」

 バランスを崩し、床に倒れた茜音がそう瞬間的に口にする。

 その様子に羽音がキッと音晴を睨むと、その頬を拳で殴り茜音の元に駆け寄った。

「…大丈夫かよ。姉貴」

 羽音が手を差し出すと、大丈夫と言って茜音が手を取る。

 その一方で音晴はわなわなと湧き上がる怒りで震えていた。


「父親を殴るなんて、なんて親知らずだ!お前をそんな風に育てたつもりはない‼」

 その言葉を聞いた瞬間、羽音が茜音を守るように立つと音晴を睨み付ける。

「なら親が子供を傷つけんのはいいのかよ⁉お前なんかがオレ達の父親だなんて反吐が出る‼」

 羽音のラベンダーの瞳が紅く染まっていく。

「なんでお前はいつも子供の好きな事をやらせねぇんだ!それでも親かよ!うちを継ぐ?んな長ぇ事続いてねぇ、家業でもねぇもん継げるか!」

 羽音の瞳が紅に染まる。

「お前なんて…お前なんてオレの親じゃねぇ‼」

 羽音はそう言い捨てると、音晴を押し退け廊下を駆けた。

「待て、羽音!」

 その音晴の言葉も虚しく、羽音はそのまま家を飛び出していった。

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