激辛カレーパン
――キーンコーン・カーンコーン――
お昼のチャイムがなり、教室に居た人々がそれぞれにお弁当を広げたり、教室の外に飛び出していったりしている。
心奏が教室を出ると、響彩がお弁当を持って待っていた。
「心奏、一緒にどう?」
「うん。羽音も呼びに行こうか」
心奏の言葉に響彩は微笑みコクンと頷いた。
二人はもうすっかり静かになった廊下を進み、B組の教室を覗き込んだ。
真ん中辺りの席で机に突っ伏している羽音を見つけると、心奏が羽音に向かって叫んだ。
「おーい、羽音ー。お昼一緒に食べよう?」
その声が聞こえたのか、羽音はふっと顔を上げると、席を立ち「おう」と返事をした。
「あっ、神々さんだ。いつ見てもかっこいいな〜」
「あんたに神々くんはまだ早いって〜w」
「天野さんは今日も可愛いな」
「おまえには雲の上の存在だわw」
「確かになw」
「おっ、また草柳のやつ天野と神々に呼ばれてんぞ。天野と神々もよく草柳とつるんでるよな〜」
「俺ならゼッテー無理だわw。あんな奴」
「おれも〜w」
羽音のクラスメイトがボソボソと囁く。
そんな囁きの間を縫って羽音が教室から出てきた。
「羽音、大丈夫?」
「んー?おう。待たせたな」
心配そうな心奏を他所に、羽音はいつもの事と言わんばかりの返答をした。
「アイツら今度痛い目合わせてあげましょ」
響彩のいつもより低い声と鋭い視線に心奏と羽音が目を丸くする。
「程々にね?」
心奏が苦笑いでそう言うと、空気を変えるように「今日も購買?」と羽音に尋ねた。
「あぁ、今日はあの辛いカレーパンが出るらしいしな」
羽音がそう答えると同時に、購買に向けて三人は歩き出した。
「ああいう奴ら程、群れてないと何も出来ない癖に……」
響彩はまだ怒りが治まらないというように、ブツブツと小言を言っている。
心奏は羽音と響彩の事を心配するように苦笑いをすると、話を変えるように羽音の方を見た。
「そういえば、ヴァイオリンとクラシックの方はどう?」
心奏の言葉に羽音の表情が曇る。
そして頭を掻きながら、振り返る事もなく答えた。
「ヴァイオリンはどうにかなりそうなんだけどよ、クラシックは…クラシックはどう聴いても雑音なんだよな〜」
羽音の言葉に、心奏が顎に手を当てる。
「うーん。どうしたらちゃんと音楽として聴こえるようになるんだろう?」
その言葉に羽音は「さぁな」と言いながら廊下を右に曲がった。
購買の目の前まで来ると、羽音達は大勢の人に行く手を阻まれた。
どうやら今日は『幻のメロンパン』と呼ばれる手作りメロンパンが発売される日らしく、購買の隅のホワイトボードに張り紙がされていた。
「今日は混んでんな。いつもはガラガラのくせに…」
「幻のメロンパン?の発売日らしいわよ。ほら」
響彩がホワイトボードを指差す。
心奏達三人は身動きが取れずにいると、購買にいた女性が羽音を見つけたようでカレーパンを持ってこちらに歩いてくる。
「羽音くん、今日も来てくれてありがとね〜。コレいつものね」
女性がそう行って羽音にカレーパンを手渡す。
「こちらこそ、いつもありがとな。おばちゃん」
羽音がカレーパンと交換で小銭を女性に手渡した。
「またおいでよ〜」
カレーパンを受け取った羽音に女性が声をかける。
「おう」
羽音の返事に女性が手を振る。
その女性の行動に羽音も手を上げる形で応じ、購買を後にしたのだった。




