演劇『ゲンジツは?(1)』
とある教会。
一人の天使が聖母マリア像に向かって祈っていました。
その教会の扉を乱暴に開ける者が一人。
天使が顔を向けると、そこにはつまらなそうにチャーチベンチに座り、マリア像を睨んでいる一人の悪魔が居りました。
響彩「貴方も祈りに来たのですか?」
天使の問いに答えることなく、悪魔は未だマリア像を睨んでいました。
そんな悪魔の様子に天使は落胆して、またマリア像の尊顔に向き直りました。
しかし、そこには先程まで腰掛けていた悪魔の顔がありました。
心奏「どうして、神が全て見ている訳でもないのに祈るんだ?意味が分からん」
悪魔の言葉に天使は目をパチパチとさせていましたが、天使は微笑むと手を握り合わせ祈るように目を伏せました。
響彩「神様はいつだって私達のことを見てくださっていますよ。今このときも」
心奏「ハッ、嘘だな。見てくれているなら、この世がこんなに醜い訳がない。地獄より地獄的じゃないか」
悪魔は鼻を鳴らすと、天使を蔑むように見下ろして言いました。
その時、教会の扉を開けて一人の少年が入って来ました。
少年は天使と悪魔が見えていないかのように、マリア像の前まで来ると膝を付き、懇願するように握った手を上に上げました。
羽音「神様、どうかお願いです。俺の姉の病気を治してください。もう、あんな姉は見たくありません。どうか、どうか…………お願いします」
少年はそう言うと立ち上がり、もう一度祈るような仕草をしてから教会を出ていきました。
そんな少年を見て、悪魔はまたつまらなそうに目を細めました。
心奏「そんなもの叶う訳がない。病気なんて、神頼みで完治するはずがないんだ」
響彩「さて、それはどうでしょうか?彼の願いを神様は聞き届けてくださるかもしれませんよ」
心奏「ハハッ。そうだったらオレも神に祈ってやるよ。絶対にあり得ないがな…」
数日後、天使と悪魔がまた教会に集まっているとき、あのときの少年が少女を抱えて教会に入って来ました。
少女は肩で息をしていていかにも苦しそうです。
羽音「神様、お願いです。どうか、どうか!姉の病気を!」
少年は少女をマリア像の前に寝かせてそう叫びますが、少女の容態は変わらず少年の声が教会に響いただけでした。
それを見かねた悪魔は少年と少女の近くまで歩いていきました。
響彩「何をしているのです!」




